君に届かない想い
@Takenura
君に届かない想い
冷たい雨が降りつける寒い雨の日、僕はいつもの時間、いつもの場所で君を待つ。
僕の目の前をたくさんの人が通りすぎる。
かつて、山奥で誰にも気にかけられずひっそりと暮らしていた僕には、人ごみに溢れているこの街は新鮮だった。誰も僕の事なんか気にせず、気づいた人もみんな何かに追われているかのように過ぎ去ってゆく。
でも僕は、決して寂しくない。だってこの街には君がいる。君以外は僕の事を無視して去っていくけど、僕にはそんなこと関係ない。
僕は君を待っているこの時間が大好きだ。
君のことを想うといつも胸が苦しく、時間があっという間に過ぎる。君を想う気持ちが僕の冷たくなった心を揺さぶる。君の笑顔が僕の胸を焦がす。
君が笑顔になってくれる。それだけで、無機質な僕に存在しないはずの「嬉しい」という感情が沸き上がってくる。
君がいつもの笑顔で幸せになってくれるなら、僕はそれだけで幸せだから、僕も君にとってそんな存在になりたい。
僕は君さえいてくれれば他になにもいらない。君の事だけをずっと思っていたい。そしてこれからもずっと君が僕の前に来ますように。僕の心は君以外見えなくなってしまっている。
もう君のいない世界は考えられない。
なぜか懐かしく君を想う。
僕が君を初めて見たのはそう、今日みたいな寒い雨の日。僕が初めてこの街に来て間もない頃。慌てて改札を抜けようとしていた君は、荷物が引っ掛かり盛大に転んでいたね。
雨の日、傘を忘れた君は、僕の前を急いで走って行った。暑い夏の日、君は僕に麦わら帽子をかぶせてくれた。雪が降る寒い冬の日、君は僕にかかった雪を払って傘をかけてくれた。
僕はそんな君の優しい所も、ちょっと間抜けな所も含めて大好きだ。
これまで色々な女性が僕の前を通ったけれど、やっぱり君じゃなきゃダメなんだ。僕の前で立ち止まってくれた、君だけが好きなんだ。
そんな君はいつでもどんな時でも、笑顔を浮かべている。でも君は僕の気持ちに一向に気付いてはくれない。
いつも僕の前にやってくる君。僕はただ見ているだけ。
そんな君を見て立ち尽くすだけの僕の前に、今日も君はいつも通りの時間に、笑顔で僕の前に来て言う。
「お地蔵さん…私の願いが叶いますように…」
君に届かない想い @Takenura
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