第29話「スペンサーの聖夜」

「白瀬よ、先日は失礼した」

「なんですか改まって、不意を衝く気ではないですよね?」

「相変わらずだな、実はだね、真実についてわかったことがあったんだ」

「真実?」

「あーそうか、やはり君はドッペルゲンガー症候群になってるみたいだな」

「え?」

「それは先日の話だった」

「また語りだすんですね」

「ああ、とくと聞くがいい、真実の正体についてね」

「はい、」

「あれは確か1200年前だった、生きては死ぬ、神がいた」

「神ですか?」

「アダムとイブというべきかな」

「彼らは創造主が唯一生んだとされる子孫ですよね」

「ああ、そうだ、つまりその輪廻もこの私たちの中にあるんだよ」

「確か、命の祭りでしたっけ?、命は受け継がれ、全人類に共通因子があるとされるという話ですよね」

「そうだ、そしてその因子が一つ消えたんだ」

「どういうことですか、人が死んでも、因子はその他多くが、持っているのです、再構成は可能でしょ?」

「まったく、深読みが過ぎるね」

「ではなんだと」

「命のリレーについて、読んだことはあるか?」

「確か、遺伝子のマイクロ因子の事ですよね」

「そうだ、生きる間に遺伝子は変形する、そして思考的違い、肉体的形成、変異があるとされる、これは、遺伝子が、環境によって偏差してるからなんだ」

「では、先日といったのは、つまり、新形成されている遺伝子、つまり新未来がついえたと?」

「ああ、多くを失ったよ、一人が死ねば、多くの未来が遅れる、これが先日あったんだ」

「まさか遺伝子サイクル、つまり周期に対してのサイコロジーが起こったと?」

「ああ、先日、人が死んだ、そして、それは、私だったんだ」

「一体、何を言っているですか、」

「なぁ白瀬、昔話したよな、見えない透明にも、透明なりの色があると」

「はい、水がうねるように、透明もうねるという話ですよね」

「そうだ、これが死者の解釈だ、つまり今は波となって君の心波に波長を合わせているんだ」

「では、ここにいる先生は、遺伝子によって再形成された、ポリゴンだと、」

「そうだ、プログラムとの融合遺伝子、死者との複合生命だよ」

「では、先生は、生きながらにして死者と話せるのですか?」

「そうだ、死体とさえ話せるんだよ、私わね」

「そんなバカな」

「考えても見ろ、深層意識とは最初から人間にしかないんだ、だから猫とも話せない、犬とも話せない、だが人間なら互いの意識が共通しているから、理解でき、話せるんだ、これはつまり、死者とは別生命になったということではないか、」

「なるほど、では、死者と話せるというのはカマかけで、先生は誰かを亡くしたのですね、」

「まったく、平然と言ってのけるね、白瀬」

「では、先生は、死者とのコンタクトをしたいと、そして死後にある遺伝子を取り出して、成長させて、複合生命として、再構成したいのですね」

「まったく、読みがいいね」

「先生、あなたはやっぱり根っからの、不幸物ですね」

「何を言う、」

「死して生きるとは、きっと悲しいと思います」

「なぜだね」

「いつだって命は終わりへ向かうんです、これはアダムとイブが言ったことですが、彼らは、死してなお出会えると思ったのです、いづれ生まれるとわかっていたのです、この意味わかるでしょ先生なら」

「ああ、そうか、遺伝子は共通してる、つまりここにも要るんだ、」

「はい、その子もいますよ」

「ではこの遺伝子を取り出せば、二人になるのか?」

「またまた、そんなの不可能です」

「いえ、死者からではなく、私の中から取り出して、それを照らし合わせて、再現できないのか」

「いつだって死は悲しいかもしれません、それでも死してなお心があれば、その子は後悔しないのではないですか、先生はいつだって死を重んじて、生きることに情けをかけています、それは本当に、その子のためですか?」

「何を言っている、死を重んじているが、しかし情けだって大切で、それが矛盾しているなんて、ありえない、いつだって死した子が心に居るのは当たり前だ、そうでなくては、誰がその子を分かってあげられる、死した子はもう何も言えないのだぞ、それがどれだけ孤独か、どれだけ痛いか、その子は死ぬ寸前に見えたのは何か、それがただただ知りたいんだ、で、なくば、私は、なぜ生きてるかと存在を許せなくなる、これは間違えか、」

「いえ、思うことは大切でしょう、死者を代弁して、世界に問いかけても、それはやはり、同情なんですよ、誰もが死ぬから、共感できないんです、誰もが受け入れたくない、死なんです、だから。世界は、死を考える前に、今ある景色を大切にしてるんです」

「白瀬、お前は間違っている、死とは、別れではない、死とは、再開を望む者だけの正義みたいなものだ、つまり、死を受け入れ、手を合わせるなど詭弁だ、別れを受け入れて、楽しいか、それでなんだ、やらねばいけないのは、死者に対して絶対の世界を用意することではないか、再発させない、そんな死への絶対的抑止力をもって、死をもっと問いただせねばいけないのではないか、なぜ教科書に、それが書いてない、なぜ誰も、学ぼうとしない、君でさえ、原因を知って、なぜ、生きていける、この火種は、本当に未来永劫、私を悩ませる、それが君には抜けているのか、忘れて生きれるのか、いつだってよぎるだろ、死が怖いと、誰かが今日も死んでると、それに対して、なぜそこまで、目を輝かせてまで生きていける、部屋に居たい、外に行きたくない、この気持ちは、なぜ芽生えたと思う、なぁ白瀬、世界は、終わっているんだよ、私の中じゃとっくに、不要なんだよ、こんな世界、早く滅べばいい、それが正しいよ、それが正しいんだよ」

「先生、あなたはやはり、善人ではあります、しかし道徳的ではないでしょうね」

「わからない、わからない、ただ君が何を言ってるか、本当にわからない、でも白瀬、君は死してなお生きれる人間を知ってるのか?」

「はい、私はたとえ誰を失おうと生きれます、死にはしません、それが道徳です」

「まったく倫理さえ超えて、道徳さえ習って、それが誰のためになる、お前は初めから、生きることを死ぬことだと受け入れて生きてるのか」

「いえ、死は免れません、しかしいつだって目の前を見てます、」

「ならなぜ、この夜に月を見てる」

「先生は先日と言ってましたが、推察がつきました」

「ああ、そうだな、私はわかりやすいからな、いつだって無秩序になるよ」

「先生って、いつか誰かに化けて、言葉を使うのですね」

「それでも、心まで同化しているよ、聖典に、あるのは、心ではなく、言葉だ、だから間違えを知らない人間が多すぎる、私はいつだって心を作りたい、心を書き留めたい、これが真意だ、だがすべてつまらない、何を見てもつまらない、これは誰も知らないからじゃないか、本当の心を、感動を、愛を、しぐさを知らないからじゃないか」

「そうですね、先生、でもいい月ですね」

「ああ、そうだな、いつかまた、星の下で」

「はい先生」

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