第22話「フロストレインに祝杯を」
「白瀬、君は世界がどうあれ、自身を誇示できるか」
「藪から棒ですね、先生」
「ああ、人は何かを対価に経験を得る、これは言わば対峙する鏡ではなかろうか」
「確かに、対照的に人を見てそこから自身を汲み取る、これは現社会の必定とも言えましょうね」
「ああ、しかし人は背を見て育つという、つまり常識が違えば、生まれも変わる、これは人単位で行われ、その都度、個性が生まれ、最悪の場合、死さえ予見して、さらなる、悪義が生まれるのではないか」
「そうですね、人における環境への影響と、その際生じるフィードバック、つまり心的反応は、その都度環境を変えます」
「ではだね、白瀬よ、私の歩いてる道も、きっと鏡のように、誰かの供物であり、または私が知る道とはまた違う常識、または体制があったのではないか、この目に映る全ては誰かの鏡で、それを見た時、映り込むのは自身の心だけ、これは真理だろうな」
「ええ、先生の言う、自身の世界しか観測できないのは誰しもあると思います」
「そうだね、君が言っていた、時間的要約さえ、体感が違うのではないか?」
「先生は北海道まで30分で行けると言ってましたが、それは体感速度のことだったんですね」
「良い線を行っている、しかし私の知る時計は、30分なんだ」
「どう言うことですか、まさか時間的要約が違うとでも、それともまた一万円と一円の価値のように、違う教育があると?」
「そうかもしれない、私は自身を不死だと思っているんだ」
「まさか、どう言う理屈ですか?」
「なかなか、疑い深い言い振りだね、簡単に言えば、1分は60秒だが、30分は永遠の反章なんだ」
「あれですね、切り返し地点が30であり、一周すると60から1になる、つまり、0.5時間が先生の時間だと?」
「わかってるね〜、ではだね白瀬、時間が1時間で30分進むとなれば、0.5時間だ、では30分が1時間になるには、?比例して0.5は1に なりえる反復地点だ、つまり不死の時間は60だ。これを更に数字にかけてみると、60で1。1は60。これは永遠の数式にならないか?」
「R +60=1ってことですか?」
「その通りだ、だから30とは30R +60=1だね、」
「誤魔化さないでください、本当は、1Rが60だから、30分は・・・いやあってますね」
「相変わらず、乗せては返す、つづら折りの感慨だね」
「先生、でもありがとうございます、1分が1Rだとわかりました、」
「ではだな、白瀬、応用だ、1Rが0.5Rになるには、30秒と解が出るが、しかし反復地点は永遠に到達していないんだ」
「生きてる人間は反復地点にいるということですか?」
「そうだね、正確に言えば、R +60=SONATA、これはベリージュエルの数式なのだが、実を言うとね、世界はどうやら60周期では回っていないんだよ」
「まさか楽園の周期、つまり、永遠の世界の周期が60であると?」
「そうなるな、死者の魂は、60Rだ。」
「まさかでは楽園は存在し、この世界は反復回転している、不死の途上の世界だと?」
「そうだ、つまり60Rを再現すれば、永遠はこの身で叶うぞ」
「しかしどうすれば」
「簡単だよ、時間の概念を60Rにするだけだ、つまり時空を変えるんだよ」
「しかし時空など、因果の世界、初めからある、摂理、それを操るのですか?」
「ではだ、白瀬、考えてもみろ、電子レンジでものを温める、これは時間の進みで、温まるものだ」
「つまり、火加減を調節して、人を60Rまで加熱すると?」
「さすがだね、白瀬、君もできるやつではないか」
「わかりました先生、その方法を考えましょう」
「すでにあるぞ、時空とは、心のことだ」
「え?」
「ベリージュエルが言っていたんだ、死は死であって永遠にも勝ると、だがその永遠は、とても儚いと」
「まさか、そんな永遠とは思想であり、死さえも想像の一つだと?」
「そうだよ、死を知っていても、死ぬわけではない、世界は初めから永遠のように儚い、つまりね、既に永遠だ、心があれば時間は超越できる、これが新概念、永遠の倒置法だ」
「では、もうここは、60R、いいやSONATAの世界なんですね」
「そうだ、ここは楽園のソナタだよ」
「先生は好きですよね、そういう言葉遊び」
「いちよ言っておくが、60とは秒ではなく、永遠の頭文字だぞ」
「永遠が1つってことですよね?」
「面白い、光の速度それが永遠だよ」
「そうでしたね、先生はやっぱり、よくできる子ですね」
「何を言うか、確かにマキアート夫人が言っていたよ、人は光の速度を越えられないから0の世界を見ている、もし光の速度1に到達すれば人は永遠になる、しかし1は既にこの世界にある、つまり死者は光となり集合している、誰も死んでない、誰もが生きてる、それだけだ、」
「あなたって人は、どこまでも考え込んで、答えを探しているんですね」
「なぁ白瀬、君は永遠になったら、また見つけてくれるか?
「何を言い出すんですか、先生だって生きてるでしょ、見つけれますよ」
「そうか、また君と会えるのか」
「なんで自分がまるで死んでるみたいな言い方なんですか」
「良いや、ただね、フロストレインに祝杯を、それだけを伝えたい」
「先生、また変に勘繰らせないでくださいね、二人はいます、ここに居ます」
「そうだね、決して一人なんかじゃない、死んだって一人なんかじゃない、そうだよね」
「はい、大丈夫です、大丈夫です」
「ああ、ありがとう白瀬、また君と世界を歩けるなら、生き返るよ、何度だってね」
「はい、先生。」
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