第15話「愛はここにある」

時間的制約を前に言葉を並べる

これが二人の日々だ、

どこまでも記し、何を持たせ、何を思わすか

この言葉の使いに、きっと作家は踊るのだろう。

そして二人は新人賞を目指す。


「先生」

「なんだ白瀬、まさかあの時が来たのか」

「はい、ついに文豪ケミカル刺激をするあの祭典が来ました」

「いくらほどだ?」

「要約して、7対3ほどです」

「片手じゃ足りんな、」

「ええ、一発当てましょう」

「作為の中に金がねを諭すとは、世界も欲しがりだな」

「ですね、しかし先生、ある以上、動きましょう」

「取るか、新人賞、そして永劫の名をほしいままにしよう」

「クレベリックウィスパー、本は書き手より読者を肥やす、この通り、資金繰りなど匙ほどの建前ですよ」

「言うね、しかし描く面白さも知っている」

「いつか読み手を書き手に、この二つをつなぐのは私たちにだってできます、本はいつも、想像を超えて、行動さえ与えます」

「そうだね、例え、愚にもつかない作品でも、その人なりのアイデンティティーがあるだろうし、その読み手が良き理解者になってくれるはずだ、投じるか、誰かを揺るがす、渾身の傑作を」

「ええ、本に勝るのはお金ではないです、しかしお金だって一つの誠意です、だから今は書きましょう、誠意という名にかけて」

「ああ、まっとれ、300万円」

「先生は、きっと賞金めあてでしょうが、でもそれだって心理の一つ、イベントですものね」

「ああ、すべては決心を強めてくれる、淀みない、後押しだと思っている、故に高ぶるな、世界の落し蓋に存分に煮えたぎってやろう」

「ええ、先生」

「では豪華絢爛に最高速度で仕上げるぞ、世界は広い、それに誰かが待っている、気がする」

「先生って、いつからかそうして、大人になって、何かを気構えて、生きてしまうのでしょうね」

「安心しろ、この文豪会だって、気構えているが、その口、何かを見たいんだよ」

「だから待っているなんて、先生って、ほんとは、誰かに受け入れてもらって、その先にある時間が好きなんですね」

「そうだね、少し気をまわして、世界が色を見せるのはしってる、その時にのっかってやるのが、せめてもの誠意だ、君の言う文豪賞だって、イベントとと言っていたが、あれは本当は、誰かの絆を深める世論でもあるんだよ」

「そうですね、さすがです、だから先生は世界を救い上げて、多くを連れて、人類の明日に光を見ているんですね」

「詩人だね、しかし悪くない、言葉はいつだって誰かを支えている、信じたいことは物語にだってある、世界にはたくさんの物語がある、そのうちの一つ、例え世に出ない作品でも、確かに一人でもどこか浮かばれてくれるなら、それでいい、本当はね、世界はお金で贅沢できると思っているかもしれないが、そうではない、本当に大事なのは、今ある世界にどこまで挑戦できるかだ、だから間違えないでくれ、この作品は、一種の挑戦で、ただ一つのオリジナルだ、この中にどれだけの価値があるか、それはきっとみんな違うんだ、でもね、そこには確かにこもっていたんだ、挑戦したという、証が。挑んだという、れっきとした時間が、それこそ、何より得難い、経験だ、だから忘れずに、私たちは書くことをやめなくていい、いつだって挑んで、いつだって、頑張っていけばいい、これが贅沢だ、自由を手に入れるこの苦闘こそ、何より得難い、贅沢だ」

「そうですね、先生、あなたは多くを知っているように見えて、どこか悲観して、諦めているけれど、まだ追いかけている、そんなどこか引っ張られていくような方なんですね」

「そうかな、確かに金もなく、自由もない、それでも諦めているわけではないよ、常に二つの心を持っている、うまくいく人とうまくいかない人、この両極に私はいるんだよ、だからのあわいに揺れている、それは紛れもない葛藤で、その情緒を、育てていくのが私だ、だからね、悲しんではない、悲しみを見つめて、考慮しているんだ、だから心配しないでくれ、ここにある、わたしは、まだすべてではない、育っている途中の私だ、だから、いつか君を心配させたら、その時は、大丈夫ですか、ではなく、乗り越えましょう、でいいよ。」

「はい、ともに行きましょう、このろくでもない日々に、それでも挑んだ二人の贅沢を存分に振るいましょう」

「と、言っても、負ける気はさらさらないがね、必ず、君を幸せにする」

「ふふ、先生は、私のために描いているのですか?」

「あたりまえだ、君が居なければ誰が飯を作るんだ、外にも出れんぞ、故に君は必需品なんだ」

「相変わらず、使われてるようで、愛されている、みたいです」

「あ、愛???、君ね、まったくこれだから苦労するんだ、私は愛など言うほどわかってもないんだぞ」

「成長中でしたもんね、一緒に乗り越えましょう」

「そうか、共に生きれば、わかるものなのもしれんな」

「そうですね、せんせ、行きますか」

「ああ、行こう、って。どこにだ?」

「北海道です」

「おお、いや意味わからんよ」

「題材は家にはない、現場は足で知れ、作家なら、飛び込め。、これ鉄則ですよ?」

「まったく、どこでそんな意図悶着覚えたんだ」

「本からです」

「そうか、ならば行こう、この世界に二人の言葉を誰かが知ってくれるように、私たちが生きた、その時間に共感して、いつか笑ってくれるように」

「先生って、相変わらず、言うことが、大げさですけど、でも、好きです」

「急に告白するな、いつだって照れれるわけじゃないんだぞ」

「そうですね、今は真剣に前を向いているんですものね」

「いやいや真剣に悩んでいるんだよ、北海道寒そうだし」

「でも一緒に行けば寒さも乗り越えれますよ」

「そんな万能な言葉ではないだろ、それ」

「でも、行きませんか?」

「まー君が居れば荷物持ちにもなるし、便利に使えるからいいとするか」

「相変わらずですね、素直じゃない」

「でも、素直になっても、君が居ないと困ることには変わりない」

「そうですね~、ふふ」

「なんだ、そのふやけた表情は、煮え切らん奴だ」

「いいんです、先生にはまだわからない、成長しないとわからない、愛というものですから」

「愛は知ってる、知ってるからな!!」

「ほほ~、では一言でどうぞ」

「愛はここにある」

「ほー。どのあたりですか」

「胸のあたりだろうなふつう、心と一緒のところにあると思う」

「わかりました、せんせ、北海道行きますよ」

「聞いてたか今の話、正解しってるんだろうな??」

「知ってますよ、愛はこのあたりにあるんです」

「どのあたりだよ」

「私の目を見ないとわかりませんよ、ほらここですよ」

「君と目を合わしたら、ちょっと気恥しいから、あとで教えてくれ」

「はーい」

「じゃひとまず、行くぞ」

「ええ。せんせ」

「ああ、白瀬」

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