第13話「この世界なら愛を知れる」

「白瀬、寒い」

「あたりまえです、外には備品はないんですから」

「もう嫌だ」

「駄々をごねないでください、店に入れば、いいだけです」

「なるほど、店とは、一種のセーフゾーン、だったのか」

「先生って、自分を何だと仮定しているんですかね~まったく」

「王だとも」

「なるほど、やはり飛びぬけてますね」

「それぞ、最たる姿だからね」

「あなたって人は、底知れぬのではなく、恐れ知らずかもしれません」

「それでも躊躇する人間には未来は生み出せないよ」

「なぜでしょう、」

「躊躇とは、恐れであり、恐れたままでは何も信じれないし受け入れられない、だからこそ、人を知るときは、躊躇を捨て、余念のない姿で居なくてはならない、世界とはね、必ずしもいい面ばかりはではない、しかしその時に対して、疑念や不安でものを据えていたら、きっといつまでも闇を闇だと思ってしまうんだ、人はね、常に、前を向き、恐れを受け入れ、取り込み、躊躇しない気構えにならないと、何も進まないのだよ」

「そうですね、確かに受け入れ、理解し、肯定し、自身の器を広げる、それは確かにた大切でしょうね」

「わかれば良し、それでいいんだ」

「あなたは楽観的だと思っていましたが、そうでなければ、世界は生きにくいと知っていたんですね」

「そうだね、数々の事を知れば、おのずと恐怖など無いと知る、あるのは恐れしまう無知さだけだよ」

「やはり道理を超えてますね、しかし絶対的に悪に対して、あなたはその楽観的な姿では入れますか」

「悪について、討論するのはやぶさかではない、しかし、必ずしも話せる悪ならば、恐るるに値しない」

「そうですか、あなたはやはり出来た人ですね、」

「善と悪、この両面には、違いがあるだけだ、何を悪として何を善とするか、これこそ人が作った牢獄だ」

「では、本当の世界とはどんなものを示すのでしょう」

「言ったろ、誰もが身近なものを幸せにしたいと思える、そんな良心で結ばれる世界の事だ」

「では罪に対して、良心は働きかけられるでしょうか」

「地獄を知ってるか、あれは末路、では悪の末路は、悪の行く末、つまり、罪に対して善が働きかけねば、その人は悪の末路に落ちる、だから善と悪はある、わかったかな?」

「ええ、さすがです、では現世界は良くできていると言うことですね」

「いや、悪に対して善があれば、善に対して悪は不要なんだ、この意味が分かるかな?」

「つまり恵まれた人ほど、毛嫌いすると」

「そうだね、人はね、満足すれば、次は整え始める、これが現世界の闇だよ」

「つまり、悪に対して、善の働きで、救えても、善の働きで、悪を苦しめることになる、あるいは、善こそが悪を作り出している、そういった相対性パラドックスのことでしょうか」

「そうだね、悪は悪で、善をいやがる、だが善も善で悪を嫌がる、だがこの過程に、法を設けて、見えない線を引いた、ここまでは良かった、しかしその後世界は、抑止力を強めるあまり、自由に欠ける世界を作ってしまったんだ」

「なるほど、つまりは、法を束ねるあまり、世界そのものに限定的な条件をつけてしまい、それこそが世界にあったはずの可能性を抑制してしまったと」

「そうだね、しかしこんなのは、ただの哲学だ、真の世界を目指したいなら、口をつぐんで、生きればいい」

「なぜですか」

「誰もが誰もをとどめる、これこそ人間社会だ、故に一人こそ、真に自由で、束縛されない、だから群れる以上、制約も出来、心身は損なわれるだろうね」

「わかりました、やはりあなたは、まだ世界を信じていないのですね、」

「突飛なことを言うね、世界を見た以上、後には戻れない、それだけさ」

「では、あなたの言う、世界とは社会であり、人であり、法則であり、そして、あなたに対する、害悪だったと言えるのですか」

「無論、言葉を急けば、答えは出る、社会もまたそれ。悪を止めようと、急いた答えで法を作った、ここに心はない、だから世界が嫌いだ」

「わかりました、やはりあなたは怯えているんですね」

「そうか、ならば一つ教えてくれ、君のいる世界はどうなんだ」

「私は、生きることに負い目を感じていません、でも勘ぐるような事もあります」

「ではその勘ぐった不始末を、君はほっておけるのか?」

「いいえ、きっと不安の種になってしまうと思います」

「言ったろ、これこそ、世界だ、誰もが、誰もに影響を及ぼす、ここに自由などないだろ」

「それでも、悪影響だけではないはずです、」

「だとしても、悪影響もあるのだろ」

「ありますね、そんなときは、ご飯を食べて、友達と話して、寝て忘れます」

「いいね、とても。もし世界から逃げ出して、一人でいるとき、その時、まわりに誰もいなければ、君はどうする」

「きっと、泣くのだと思います」

「そうか、甘いね、その子はね、正されたいんだよ、自分よりも世界を、そういう子はね、必ず闇を知る、だからこそ悪は悪であって正義は正義であって、そこに悲観するんだよ、結ばれない二つ、誰かの作った無様なルールにね」

「先生は、二つを結ぶことにを考えているのですか」

「そうだね、しかし現状、確かに更なる悪影響になる前に、止める予防策としての保安官がいるのだと思うよ、でもね、これを結んだとき、たぶん、悪は増えると思うよ」

「どうしてでしょう」

「人はね、口喧嘩をするには怖がらない、でも社会という管轄で起伏を見せるのは、抵抗している、これはある意味、いいともいえるからね」

「わかりました、ではあなたもこの世界以上にいい世界もあるかも知れないが、その実現にはまだ遠いと、代替えできるマニフェストがないということですね」

「ああ、だがね、明確な一つがある」

「なんでしょう」

「人を愛せる人が一人でも増える、マニフェストになればいいと思うよ」

「やはり、せんせいらしいです、でも先生もこの世界で、誰かを愛せたのですね」

「何を言うか、愛など知らん」

「ふふ」

「もっといい世界にならないと、わからんな~」

「ふふふお上手な事で」

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