第8話「救済の最高傑作」

「ボンジョルノ、白瀬」

「え?あ、はい、ボンジョルノ」

「なんだ、知ってる口か?」

「本はそれなりに読みますからね」

「そうか、得てして私と君は同じ道を辿っていたか」

「ま、と言っても、先生の書斎にあったのを読んだので、そこまで運命的とは言えませんけどね」

「そうか、となれば最後の敷居という本は一段と凄いぞ」

「はぁ。まぁおすすめなんですか?」

「そうだね、しかしその本はこの世に無いんだがね」

「どういう事ですか?」

「失われた本と言うべきだね、」

「王朝の本といった類いでしょうか?」

「その推察は中々いいね、しかし古代文献ではないよ」

「そうですか、ならば文化遺産とかですか?」

「どうにも君は、貴重な本だという推測をしているみたいだね」

「違うのですか?」

「ああ、それはね予言によって誕生を予期されている本なんだ」

「ほお、そんな本があるんですね」

「ああ、だがねその本の誕生予言日は昨日だったんだ」

「え?そんなタイムリーな事が」

「君はもっと、文学ニュースを日常に取り入れるべきだね」

「私も、カルゴーやBBC、サナトレーションまで幅広く知見は広げてますがね」

「それは全て公的機関の言わば、玄関局だろ、もっとオカルト省まで進出する事をすすめるよ」

「例えば、なんですか?」

「そうだね、例えばエグゼクターペルシアスとかだ」

「え?おかしなこと言わないでくださいよ、それって私の行きつけのバーの店名じゃないですか」

「その通りだよ、」

「外出しない先生が何を言ってるんですか」

「ま、私は唯一昨日だけ、命を賭して外出したのさ」

「そんな、先生がそんな事出来るわけないじゃないですか、嘘言わないでください」

「ほら、さっき言ったろ、予言された本があるって」

「ああ、じゃあ、その本を探しに行ったんですか、てか行けるんですね・・・」

「そうだ、だがね、その本は無かったんだよ」

「そりゃオカルト省とかのガセネタですよ、」

「いいや、その最後の敷居という本はね、絶対に現れるはずだったんだ」

「なんでそんな事が言えるんですか?」

「それは、その本が遺書であったからだよ」

「え?」

「つまりね、その日、必ず死ぬはずの人が居て、その死によって開示される遺書、それが最後の敷居という本なんだ」

「ええ、いや、それ、なんか色々と、やばくないですか、もはや殺人予告じゃないですか、」

「その通りだ、だから私は、その最後の敷居を予言した人が殺人を犯すのだと思ったんだ」

「それで、外出したんですね」

「ああ、」

「でも検討がついたのですか?」

「ああ、ほら、前言ったろ、作家の秘訣について。」

「ああ、確か、作家は言葉を見るだけで、そのルーツを見抜けるとかという話でしたね」

「そうだ、だから私はペルシアスに行ったんだ」

「え?まさか私の行きつけのバーが殺人現場に選ばれてたと?」

「ああ、そうだ、だから私は昨日、ペルシアスに行った」

「え?大丈夫だったんですか?」

「ああ、死体は無かった」

「良かったです。しかし、その預言者を捕まえないとまだ安全とは言えませんよね」

「そうだね、だがその予言者はそこに座ってたんだよ」

「え?」

「そして予言者は言ったんだ、ここに来れた人たちは優れた言及力があると推察する、君たちに是非、私の遺書を書いてほしいんだ、と。」

「遺書を書いてほしい?」

「ああ、だが君もわかったろ、この時点で、」

「はい、つまりその人は殺すのではなく、自殺をしようとしている、という事ですね」

「そうだ、それはそこにいた誰もが悟った、だから、目を合わして、一目散にその場から逃げたのさ」

「え?なんで?」

「分かってないな、白瀬、彼は書いてほしいといったんだ、つまり言及すれば、遺書が現時点で無いという事だ」

「なるほど、それでその場から逃げて、無ければ死ねないと言う事ですね」

「それはそうだ、だがそのくらいの事、彼にだって推測はつく、」

「そうですよね、確かに」

「私たちはね、逃げたと見せかけて、本を書いたんだ」

「え?それでは、死ぬ手伝いをしてしまってるじゃないですか」

「白瀬、私たち作家の部類をなめるなよ、読み手を誘導することにどれだけ長けてるか分かってないだろ」

「では、まさか、読ませて改心させたのですか」

「ああ、その通りだ、傑作の作品だったよ、我らのね」

「自殺者を救うなんて、それは凄いですね、読んでみたいです」

「残念、言ったろ、もうこの世には無いって」

「え?どうでしてですか」

「簡単な事さ、彼が救われたからさ」

「え?」

「だから、言ったろ、彼は遺書を書いてほしかったんだ、それが消えたんだよ」

「そういう事ですか、なんだ、読まれないほうが幸せですね」

「そう、つまり彼が持っているんだ、生きてる限り、ずっとね」

「死ねなくなる、遺書だなんて、素敵ですね」

「言ったろ、それでこそ作家の本領だ」

「はい、先生は凄いです、」

「ああ、当たり前だ」

「ふふ、」

「なぜ笑う」

「え?いや、そういうところは作家の方でも見抜けないんですね」

「は?や、わかるぞ、その笑いは、・・・」

「ふふ」

「こら笑うな!!!」

「ほら、やっぱりわからない~」

「知るかもう!」

「認めましたね~」

「ふんだ!」

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