第6話「世界の創世記」

「白瀬、おでんが食いたい」

「え?無理ですよ材料ないですし」

「では、おでん缶というのを所望する」

「ああ、あれですか、自販機に売ってる、奴ですね」

「そうだ、一度でいいから食してみたい」

「あれ確か300円とかするんですよ」

「高いな」

「はい、高級品です」

「しかし、まぁ食欲には勝てんぞ」

「分かりました、では行きますか」

「まさか私も連れ出すつもりか?」

「当たり前です、そろそろ外出くらい慣れて下さい」

「いやな、これは言わば私の個性だ、コレを捨てたら私は存在感が消えると思うんだ」

「いえ、そのような心配なさらずとも、先生はもうやめて欲しいほどに個性的ですが」

「なんだその言い方は、まるで私が狂乱の沙汰とも言ってるみたいじゃないか」

「自覚がないって幸せですよね」

「何を悟っている、このトンチキめ」

「ああ、良いんですか、そのように、また自身の不わいさを見せて」

「は、良いとも、何せ、私ときたらサイコパスもビックリの人間国宝だからな」

「何。意味わからないこと言ってるんですか」

「君の理解など、所詮は並大抵、私はね、世界のありありを目撃したんだ、故に己もまた、神に匹敵するのだよ」

「先生、あのカウセリング行きます?」

「く、全く人間の悪い癖だ、万人受けを狙って、収まらない者を排除する、実に浅ましい限りだな」

「いや、だってここ人間の社会ですからね」

「だからいつまで経っても、世界水準が上がらないのだよ、常識と世間体、それが最も最初に疑うべきものだ」

「では、先生は、あらゆる者を受け入れ、その先に平和があるとでも?」

「無いだろうね、しかし結果として誰もが危機意識を持ち、世界を変えたいとより願うだろう」

「そのような、無理に押し上げていくなど、理にかなっては居ません」

「分からなくでもないが、壊さなきゃ作れないものがあるのさ」

「それが本当に相応しいと、そんな犠牲で導く世界が正しいとでも?」

「平和とはね、言わば、緊張状態なんだよ、本当に平和を作りたいなら一寸の闇もない世界を作るしかないんだ、そしてその方法は、闇に対して線引きをしないということだよ」

「矛盾してますよ、それでは無法地帯になるだけです」

「それはまさしく世界水準が低い証拠だ、世界はな誰もが分け隔てなく生きれる場所にしなくては行けないんだ」

「でも、それで殺人などを見過ごすのですか?」

「例え殺人が起こっても、罰さないね、だって悪の根源はこの世界水準が産んだんだよ、」

「意味がわかりません、みんなが悪いって考えなんですか?」

「分かってるじゃないか、罪を一人に担わせて、笑っている君らの方がよっぽど怖いね」

「少し分かってきましたが、誰もが罪意識を持ち、全ての事象を共有して考えていこうという事ですか」

「分かってないな、それではただの民主主義だ、私が言ってるのはもっと深い事だよ」

「ではなんだと」

「いいか、人は意識を持つ時点で失格だ、生まれてくる時点で掌握してる必要があるんだ」

「何を、赤子にどう、善悪を教えると?」

「分かってないな、DNA単位で考えろ、人間という種にある、野生本能を書き換えるのだよ」

「そんなの不可能だ」

「しかし君は生まれてきた時点で、すでに持っていたものがあるだろ」

「え?なんですかそれ」

「ま、それが分からないのも仕方ない、それこそが先人が築いてれた世界水準だ、当然だと思っていて、そもそも気づくことも出来なかったんだ」

「確かに、時代は変わって、人の基準も変わっています、しかしそれがあなたの言う、壊すということだなんて」

「そうさ、白瀬、君はまず受け止めろ、この事実を、世界を変えれば、人も変わるんだ。だから壊せ壊すんだ」

「間違ってます、世界は人が作ったんです、だから人を変えるしかない」

「そうさ、だがねそれでは時間がかかりすぎる、だから世界に火をつけるんだ、一人だけ牢獄に入れても意味がない、人類全てを燃えた世界に放り、叡智を結集し突破するのさ」

「全く、先生はとんでもない事を言いますね」

「それでこそ、革命というんだ」

「しかし、まぁそんな日が来るかも知れませんね」

「そうだな、人は必ず、いつかは変わる、そしてそれは全ての見方さえ変えるんだ」

「ありがとうございます、聞く分には面白かったです」

「そうか、君も張り合いがあって、話す分には手応えがあって良かったよ」

「じゃ先生、また話しましょう」

「そうだな、いつでも歓迎するよ」

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