第5話「追憶の在りか」

「白瀬、暇だ」

「いや、仕事して下さい」

「無理だ」

「何言ってるんですか、働かざるもの食うべからずですよ」

「いやそれは間違ってる、なぜなら私はまだ子供だからだ」

「何、無鉄砲な事言ってるんですか」

「多分、ピーターパンになってしまったんだ」

「なるほど、では、おすすめの精神外科があるのですが」

「いや、君ね、鬼か」

「ま、冗談ですけど、なんでそうなったんですか」

「それは今から1年前だった」

「あの語らなくて良いんですよ」

「そう、それは晴れたあの日の事、妖精が降りてきて言ったんだ、あなたには忘れ物がありますと」

「はい、それで?」

「いや君ね、分かったろ。つまり、何か学び忘れているのさ」

「それで子供に戻りたいと」

「そうだ、忘れ物が未来にあるわけ無いだろ?だから過去を見つめている」

「過去から学んで、未来がどうなると言うんですか」

「君は物腰が座ってないな、賢者とはな、常に律し常に邁進するのだよ、それは自己を振り返り、ダイヤになるまで磨くと言うことだ」

「はぁ。つまりまー先生って、身を削っているんですね」

「ん?、なんか意味合い違くないか?」

「それで、その妖精さんとはどこで会ったんですか?」

「なんでそんなことを聞く」

「まぁ良いですから答えて下さい」

「確か、公園だったな」

「先生、確認ですが、その妖精さん、何歳くらいでした?」

「そうだな、小柄であったからな、ま、5歳くらいかな」

「なるほど、その時、先生もしかして、その子と遊びました?」

「そうだぞ、遊んだよ、それはそれは楽しい時間だった」

「良いですか、先生、それは妖精では無いです、多分、子供です」

「なぜそんなことが言える」

「だって先生、公園とはですね、小さな子が集まるんですよ」

「そうなのか、新事実だ」

「いや、どんだけ世間知らずなんですか」

「でも不思議だな、あの時私は忘れ物などしてなかったんだ」

「子供というのは、遊び相手が居なくなるのが寂しいのです」

「ああ、なるほど、それで嘘をついたのか」

「そうです、少しでも長く遊びたかったんですね」

「と、なれば私は、確かに忘れていたんだな」

「ど?言うことですか?」

「ほらね、子供は遊びたいんだ、だけど私はそれを忘れて帰ろうとしてしまったんだ」

「でも疲れるほど遊んだんですね」

「ハハ、そうとも言えるね、もしかすれば子供には大人にも見抜けない繊細さがあるんだろうな」

「そうですね、大人というのは、どこか麻痺しているかも知れません」

「君が言った過去から学んでどうするという言葉だが、まさにそうだ」

「いや、それは訂正したいです、」

「いや正しいよ、過去から学んではいけないのさ、過去は学ぶではなく、忘れてはいけない物なんだ」

「あ、さすがですね、先生。」

「でもね、どうしたって人は何かを忘れる、その時はどうすれば良いだろうか」

「また、公園に行けば良いのでは無いですか」

「どういうことだ?」

「ほら、忘れ物は思い出だったんですよ、だからまたそこに行けば蘇るんじゃ無いですか」

「ほお。中々詩人だな、白瀬」

「あ、いや、テヘヘ」

「そうだな、忘れる前に会いに行く、それが良いかも知れないな」

「ええ。先生」

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