第25話 モグラ叩き!


 そういうわけで、モグラ叩きというスタイルで戦う。手先が器用な地球警備隊のシールド部隊が、せっせことモグラ叩きの台を制作し始めた。



 ――トンカンッ



 それを私たちは、眺めている。シンは邪魔になりそうな距離で、キョロキョロとシールドの人たちの動きを眺めている。

 たまにシールドの女性陣が、イアンのことを盗み見ては黄色の声を上げた。



「か、完成しました!」



 先ほどまで、黄色の声をあげていたひとりがそう声をかけてきた。もちろん、イアンに向かってだ。その女の後ろから、ゾロゾロと女性陣がついてきていた。



「ありがとう」



 イアンも外の笑顔を向けてお礼を言うものだから、声をかけてきた女性陣は頬を赤くして去っていく。私たちに見せる表情は、もう素が出ているのだろう。どちらが良いということはなく、使い分けのできるイアンはすごいと素直にそう思う。



 

「さあ、これで戦いの続きが始められるね」



 涼しい笑みを浮かべたまま、イアンは赤と黄色のピコピコハンマーを地面に置いた。軽くシャツを綺麗に整えて、ふうっと一呼吸ついている。



「イアン先輩も大変ですね」



「まあ……それは、今のやりとりに対して?」



 私は、こくりと静かに頷いた。まだ先程のフォースの女性陣が、コソコソ物陰からこちらをのぞいている。なるべく、私もここで敵をつくりたくはない。楽しそうに話していると思われたらしく、ギリギリと歯軋りをしているのが遠いここまで聞こえてくるようだ。



「ああいうのも、大事なんだよ」



 こういうタイプは、にこやかな笑顔の下で何を考えているのかわからない。私は少し恐ろしさを感じて、眉を寄せて表情を曇らせる。言葉を濁らせて、私も同じようにピコピコハンマーを地面に置いた。



「そうですねぇ〜」



 続いて、シンにスアもピコピコハンマーを置く。そして、作ってもらったモグラ叩き台の中に潜り込む。ちょうど頭が入れられるサイズの穴が、頭上に開いている。その穴から、頭をぴょこっと出す。それを天王星人が、ピコピコハンマーで叩く。

 それで割れた紙風船の数で、勝ち負けを決める。

 

 先に地球人が台の中に顔を入れていく。さっと頭を出して下に潜るを繰り返す。時間制限は、3分間。たったと思われるかも知れないが、狭い空間の中でその動きをするのだ。

 かなり苦しさと辛さが、ある。



「さあ、どんどん顔を上げて下げて……地球人が勝つよ!」



 イアンが、私たちの場を鼓舞する。モグラ叩き台には、何人もは入れない。 天王星人も四人なので、私たちチームとで戦う。




「いい? エマ、ボクと同じタイミングで頭をぴょこっと!」




 私の真横にいるスアが、私に話しかけてくる。透き通った声が、スーパーボールのようにバウンドする。

 その声の弾みに合わせて、私の顔を頷かせる。



「よーい……ドンッ!」



 地球警備隊のフォースの一人が、声をかける。それに合わせて、私たちは頭を出していく。ゆっくりとした動きで天王星人は、ピコピコハンマーを振り下ろす。



 優しい力で台を叩かれているので、風すら立たない。静かな空間に、天王星人が叩く、ピコピコハンマーの音が、可愛い。私たちが使うピコピコハンマーよりも小さいから、音がさらに可愛らしい。



 ――ピッ



 ――ピッ


 

 動きも相変わらずゆっくりで、当たる気がしない。私だけでなく、他のみんなも思っているようだ。



「残り1分です!」




(よし。このまま気を抜かなければ!!)



 そう思い私は、先ほどよりも早く頭を覗かせた。顔を覗かせた先に、広がっていたのは……なんと、身体が大きくなったウミウシがいた。

 その大きさは、地球人並みなのだが先程の豆粒サイズと比べるとかなり大きい。




 ハッと息を呑んで私は、モグラ台の中に頭を隠す。横をチラリと見ると、この光景に理解が追いつかないという顔をしていた。

 私ですら、天王星人の身体が大きくなると聞いたことがない。



「のこり30秒です!」




 時間が、どんどん減っていく。しかしこちらの紙風船は、一つも割れていない。




(よしよし、このままを……)



 私の頭上に、サッと影を作る。息を吸い込むよりも先に、ピコピコハンマーが私の紙風船を割る。固まった私は恐る恐る、横のスアを見た。


 スアも固まり、プルプル震えながらこちらに振り返る。



 見上げたウミウシの形をした天王星人は、さらに大きくなっている。大きなヒレが腕のように、何本にも分かれているようだ。その腕で、何本ものピコピコハンマーを握りしめている。




「ん? えっと……?」



 驚くほどのスピードで、イアンとシンの紙風船を狙う。先ほどまでののんびりとした動きは、嘘のようだ。



「エマ?」



「はい?」



「この状況って……?」



「知りません……。私も知りたいですよ」



 私とスアは、もうすでに割られているので顔を上げたままその光景を眺める。シンとイアンは、交互に頭を素早く動かしている。



 「10……9……」


 10カウントが始まった。

 

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