第26話 負け……ないよっ!
「10……9……」
10カウントが始まった。私たちのふたつだけであれば、なんとかなるとそう思い二人を心の中で応援する。
しかしその念も虚しく、シンの紙風船がいい音を立てて割れる。
――ピッ
シンは頭を出したまま、肩で息をしている。そして、両腕をだらんと台に乗せている。脱力感が、かなり頑張ったのが伺える。
「3……2……1……終了です!」
なんとかイアンが一人だけ、最後まで割られることなく終えれた。苦しそうに、胸を押さえたイアン。大きくなっていた天王星人は、風船の空気が抜けるように萎んでいく。そして、通常の小さなサイズに戻った。
「イアン先輩、3つも割れてしまいました!」
肩で呼吸をして、渇いた喉からは声が出ないようだ。なんとか、数回だけ頷いてくれる。そして深呼吸をとって、モグラ叩き台から出た。
「3つも、かもしれないね。でも、こちらが4つ全てを割れたら問題ないよ」
イアンは、割とポジティブに物事を捉えているようだ。しかし、あの小さなサイズの天王星人。しかも天王星人は、先程のような知られていないことが多い。
ということは、ピコピコハンマーが当たるかどうかわからない。
「さあ、交代ですよ〜! 地球人、準備してください〜」
いつもののんびりとした声で、天王星人は話し始める。大きな姿の恐怖の圧は、感じない。ますます先程の姿は、嘘のように感じる。
私たちは、地面に置いていたピコピコハンマーを拾い上げた。小さな天王星人がモグラ台の穴から顔を覗かせるので、私たち4人も並ぶのは難しそうだ。
「誰が、こういうの向いてるかな?」
もちろん、スアは大きく挙手をしている。スアは挙げた手をさっと動かして、私に向けてきた。目を見開いて、私は固まる。
「一緒にやるよね!」
見開いた瞳を、イアンとシンに向ける。交互に見ても、二人とも頷くのみだ。チラリと見た先のスアは、やる気に満ちていてもはや私に興味を示していない。
「わかりました」
私とスアは、モグラ台の前に立った。私たちサイズの穴が空いているので、天王星人にはかなり大きい。
「一分間です。はじめます。よーい……ドンッ!」
そう掛け声をかけられて、戦いがスタートした。小さなウミウシの天王星人が、ぴょこっと跳ねるように飛び上がる。
それを狙って、ピコピコハンマーを振り下ろす。
――ピッッ
――ピッッ
しかし、小さな身体にはかすりもしない。スアは、狙いを一点に絞ったようだ。一匹の天王星人の穴と睨めっこをしはじめた。
…………
「なぁんで!? 出てこないの!? ルール違反でしょ!」
――ピッッ
――ピッッ
誰も出てこない穴を怒りに任せて、スアは叩きまくる。台が壊れそうな勢いで叩くので、私が叩いていた天王星人も恐怖で顔を出した。
「ひえぇ……」
私は、もちろんそんな隙を逃さない。
――ピッッ
「あっ! そういう作戦なのですかぁ!」
(いえ、違いますけど……)
スアは、わたしたちのやりとりなど耳に入っていないようで永遠に叩く。だんだんとその腕に力が込められて、台がへこんでいく。
「出てこない! なんで! 違反だ!!!!」
少しみんなが、引き気味になっている。隣の私も少し恐怖を覚えて、一歩下がった。
それにはなぜか気がつき、ピコピコハンマーを私の方にビシッと向けてきた。
「エマ!! 仕事!」
「……一個、割りました」
「もう! 負けないもん!」
――ピッッ
――ピッッ
スアは、先ほどよりも真剣に一点を集中的に叩き続ける。
「……スア先輩……」
「なに! 今、手が離せない!」
「あと、1分です!」
私も、モグラ叩き台に集中することにした。一つの紙風船は、割ることができた。勝つためには、あと二つは必ず割る必要がある。
私は、ぎりっと歯軋りをした。
さっと出てきた天王星人を、私はすかさずピコピコハンマーで叩く。
――ピッッ
「ざんねーん」
のんびりと間延びした声が、叩いた穴から聞こえてくる。なんとも素早い。声のゆったりした雰囲気は、どこから出てくるのかわからないほどだ。
――ピッッ
――ピッッ
スアほどではないが、力を入れて叩く。そして毎度のことのように、当たらないのだ。
「またも、当たりませんね〜」
「え、ちょっと黙ってもらってもいいかな」
「えぇ〜、そんなことをおっしゃらず!」
(これまた、面倒なタイプか。……というか、このままだとまずいのでは?)
――ピッッ
「よっし! やっと頭出したね!」
スアが、ずっと狙っていた天王星人の紙風船を割ったようだ。ようやく破ることができて、スアのテンションはかなり高くなっている。
小躍りをして、鼻歌を歌い出した。
「あ、スア先輩? そんなことしている暇ないですよ?」
「残り、10秒!」
「ほら!」
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