第24話 ぴょこっと、ピコッと!?
最終の戦いが、幕を開ける。我々地球人と、天王星人だ。小さなウミウシの形の天王星人は、これまた小さなピコピコハンマーを握りしめている。
ひれを靡かせて、空を舞っている。そして、呑気に言葉を紡ぐ。
「さあ、最後ですなぁ〜」
もう我々は、触覚に毒があることも知っている。掴みどころのない天王星人の、次の手がわからない。アンテナを張り、相手の出方を伺う。
「そうですね」
ソフィーの硬い声が、そう答える。長身で美人な顔から、圧を感じる。ひらひらと泳ぐ天王星人の返事を聞かずに、ソフィーは全てを見渡せる建物の上に行ってしまった。
「今度は、どんな戦いがよろしいです〜? 地球の面白い武器で戦うんですから、何かいい戦い方を知ってますよね?」
(いやいや! 天王星人が、これで戦おうとか言い出したんじゃん!)
言いたくなる言葉を、グッと飲み込んだ。崩れた建物の隙間から、太陽に温められた暑い風が吹く。
空中を漂っていた天王星人が、その風に流されていく。
「か、風が〜!」
飛ばされないようにと、近くの崩れかけの建物にしがみつく。そして、風が止むと空中を泳いで戻ってくる。
「失礼しました! 地球の風は、強いのですね〜」
(こんな風で、飛ばされるのに……よくここまで勝ち残ってきたね)
地球人からしたら、少し強いビル風といったところだ。もっとも、彼らの戦い方は戦ったと言えなさそうだが。
「やはり! 頭の紙風船を破るのが、主流なのでしょうか?」
少し考えているような声で、私たちに話しかける。私からしたら、お笑い番組も少ししか知らない。誰か答えてくれないかと、周りを見た。
「う〜ん……」
シンは、顎に手を当てて真剣に悩んでいる。うんうんと唸り、視線を動かす。動いた先に私の視線がぶつかった。そしてなぜか、シンは顔を輝かせ始める。
「エマ!」
(うわっ! そうくると思ったよ)
私は、目線を泳がして逃げようとする。しかし、シンは私に近づいてきて手を握って握手をしてくる。ブンブンとすごい勢いをつけて振ってくる。
うっと顔を引き攣りながらも、なんだかんだこの絡みに慣れつつある。
「し、知らない……」
その言葉に、ないシンの犬の耳がたらんと垂れるように見える。そのわかりやすい反応に、さらに私の顔を引き攣る。
「もっと、知ってそうな人……スア先輩! 何かいい戦い方を知らないですか!」
スアは、どんな内容でも頼られるというのは嬉しいようだ。鼻をふふんと鳴らして、こちらにやってくる。
「それはだね!」
嬉々とした表情でシンは、スアの話す言葉に耳を傾ける。天王星人までもが、スアの話す内容に興味しんしんだ。ふわふわと風に煽られながらも、こちらに近づいてきた。
「モグラ叩き!」
私は、頭にはてなを浮かべてしまう。誰が考えても、どうやって? というだろう。しかしここにいるのは、地球防衛隊。私も含めて、皆どこか変わっているのだ。
「おお! 良い案じゃないか!」
口を揃えて、みなが賛成をした。全員が賛成をしている最中、変に質問をするのは良くないだろうと私は口を紡いだ。
「あれ? エマ、モグラ叩き知らない?」
スアが私の顔を覗き込んで、聞いてくる。首をこてんと傾げ、その動きに赤のツインテールの髪が揺れる。
「把握してます……」
全員の視線を私は、全身に浴びる。居た堪れなくて、視線を自分の靴の先に落とした。
「ん? 何かあるの?」
私のその反応が、スアにとって不思議だったようで体育座りをして下から今度は覗き込んできた。
「うっ。……ただ、どうやってやるのか……気になっただけです……」
ゴニョゴニョと後半を少し誤魔化しながら、話した。スアは、すくっと立ち上がってクルクルと回りながら楽しそうだ。
「顔をぴょこっと! ピコピコハンマーでピコっと!」
ね? と私に向かってウインクをしてくる。キラッと飛んできた星を少し避けるように、私は一歩後ろに下がる。
「エマァ……」
それがショックなスアは、私のお腹をギュッと抱きしめて上目遣いで見上げてくる。うるうると目を潤ませて、悲しそうだ。
「うっ……あのですね。離れてもらえます?」
第三者として観戦をしているイアンは、声を抑えて笑っている。シンは、相変わらずワタワタとしている。
一旦この状況を忘れようと私は、瞳を閉じて大きく深呼吸をする。
(うん、今のこの状況は……夢! 夢の中! よし、目を開けたらそこは別の世界……)
目を開いても、もちろん同じ状況だ。もはや、笑えてくる。そして変に私のテンションは、上がった。
「スア先輩? 私も名案だと思います!!」
思っているよりも、かなり音量も大きく弾んだ声になった。その声だけ聞くと、とても楽しみにしている人のようだ。
「おお! そうだよね!」
というわけで、顔をぴょこっと! ピコピコハンマーでピコっと! する戦い方で最終決戦をすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます