第23話 私の好きな味!


「あれは、なんでああなったんだ……」


「毒だよ……」



 小さな声で私とシンは、やりとりをする。周りもざわざわとしているので、私たちの声もそれに紛れ込む。



「毒……でも、伝染しないんじゃ無いか?」



 こくりと私は、小さく頷く。シンは意味がわからないと首を傾げて、私に答えを求めてくる。



「近い距離で、毒がついた肌で触っちゃったんだよ」


 ここまで言えばわかったらしく、納得といった表情になった。頷きながら離れていった。



 桃色の煙が上がったことによって、残る最後の戦いだけになる。



(さあ、とりあえず! ご飯だっ!)


 兎にも角にも私は、この宇宙食が楽しみで仕方がない。シンは美味しくないと言うが、私にとってはご馳走だ。



 毎度のことながら、どれも美味しくて食券の前で悩んでしまう。


(あれ? 昨日までなかった、おでんが追加される!)



 今まで食べたことのないものを見つけ、私はそれにする。専門学校にも同じ食券システムだったので、慣れた手つきで注文をする。



「うぅ、どれにしよう……」



「シンのお子ちゃまな口には、どれも美味しくは感じられないのかもね」



 銀のパウチに入ったおでんを、ゆっくりと顔を出させる。ちくわを口にぱくりと、頬張る。


 味が染みていて、口いっぱいにだしの味が広がる。ちくわを噛むたびに、ジュワッとだしに満たされていく。


 

 大根は、柔らかくて口に含むだけで溶け出していく。普通に売られているおでんよりも、味が濃く作られている。


 

 気圧によって味覚が変わるので、濃いめに作られている。薄味が好きな人には、苦手なのかもしれない。



 水分もパウチ型で、チューブに口をつけて吸う。濃いめの味を流すように、緑茶が口をスッキリさせていく。



「ん〜、うまっ!」



「これのどこが、美味しいんだ! 不味すぎる……」



 やはり私の舌は、宇宙食に向いているらしい。私の目の前にスアが座った。


「エマもこれ、美味しいと思う?」



「えぇ、美味しいですねぇ」



「ボクも宇宙食が、好きなんだよね!」



 この変わり者のスアと、同じ舌というのは嫌だ。しかし、今までも宇宙食が苦手だという意見を耳にタコができるほど聞いてきた。なので、少し嬉しさが生まれる。




「なかなかこの味を好きだと言う人、いないですよね」



 スアは、うんうんと頷く。やはり、この宇宙食が好きだと言うのは少数派なのかもしれない。



「そうなんだよね! シンは……嫌いそうだね!」


 

「シンのお口は、お子ちゃまなんですよ」



 スアは私の言葉に、目を輝かせる。そして、テーブルに手を置き前のめりになった。




「ボクは、大人だってことだね!」



「あぁ〜、……そうです!」



 肯定しておけば、自分も大人な舌を持つと言うことになる。それに、スアも喜ぶので一石二鳥だ。



 ゆっくりと味わった、宇宙食のおでんはとても美味しかった。



 (今までの宇宙食で一番好きなのが、鯖の味噌煮だったけど……。おでんが、美味しすぎたなぁ)



 そんな気持ちで、私は上機嫌になった。窓の外から差し込む太陽の光がふわふわと私を包む。

 見上げた空は真っ青で、柔らかなわたあめのような雲が漂う。



(この地球を守るためにも。私たちは、戦わなくちゃ!)



 その穏やかな平和を象徴する、美しい空を見て思う。手を伸ばして、透かした私の手のひらを見る。



(さあ、最後の戦いだ! 気合いを入れなきゃ!)


 

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