第22話 ズル……じゃない?
3センチというサイズの薄紅色の木星人が先に、戦場の島に到着したようだ。たくさんの木星人が群れになっている。
「また、紙風船を画鋲で割るのかなぁ」
ボソリとシンが、つぶやいた。静かなこの部屋にその小さな声が、いやでも耳に届く。それにここの部屋には、耳のいいうさぎ型の水星人がいるのだ。
「画鋲……?」
水星人がこちらを振り返り、聞き直してくる。明らかに、画鋲でバルーンアートを割っていた。しかし、それをここで言うのは危険だ。
「はい! 俺の……」
そこまで言ったシンの口を、手で押さえた。パチンッといい音を鳴らすほど、私は勢いをつけて。
案の定、シンは驚きと痛みで固まってしまった。、
「あ、違うんです……そのぐらいの威力でしたね! って彼は言いたいんですよ……ハハハッ」
軽く笑ってこの痛い空気を誤魔化す。しかし針を刺される視線に、私の表情は引き攣る。
「……そうか」
なんとか誤魔化せたようで、水星人はスクリーンに顔を戻した。全員からの痛い視線からから解放をされて、ほっと一息つく。
シンの顔をキッと睨んで講義をした。流石のシンも、まずいことをしたと自分の手で口を押さえた。一仕事を終えたと、背もたれに体重を私はかけた。
ウミウシの形をした天王星が、ひらひらと縞模様のヒレを泳ぐように宙を舞う。鮮やかな青色が、太陽の光を浴びて反射をしているように見える。
「お待たせしましたぁ」
のんびりとした、天王星人の高めの声が聞こえてくる。その声は、建物が崩れた荒れた戦場なのを忘れてしまいそうになる。
「小さいもの同士……よろしくお願いします」
薄紅色の木星人が、手を伸ばした。木星人は、大量に集まりイワシの群れのようになっている。その手の役をした木星人と、天王星人の触覚が触れた。
「叩いて被ってでもいいですし。小さいもの同士、真っ向勝負でもいいですよ〜」
どこまでもマイペースな雰囲気を、木星人は醸し出している。
「じゃあ、真っ向勝負をしましょう」
「はい、そうしましょう〜」
そうして、頭に紙風船に手にはピコピコハンマーを持つ。ウミウシもかなり小さいので、その頭サイズに持つことのできるピコピコハンマーだ。
サイズだけ見れば、ミニチュアサイズで可愛らしい。
――ピッ
天王星人が、軽く崩れた建物を叩いてみて確認をしている。その音まで高くて可愛らしい。
天王星人は、ヒレを必死に動かして前に進む。対して、木星人は大きな群れで地球人が扱うサイズと同じものを使っている。
木星人が先に、ピコピコハンマーを振り下ろす。頑張って泳ぐ、天王星人の横を掠めた。そのまま下されたピコピコハンマーは、地面を叩く。
そのとき、おもちゃの光のような明るさがそのピコピコハンマーから放たれた。私は目をぱちくりとさせて、そのスクリーンを見た。
隣のシンが、私の肩を思いっきり叩いてくる。私の肩を叩いた手を口元に持ってきて、コソコソと話し始める。
「ピカピカハンマーだっ!」
うんと、私は頷くだけにした。
(本当に光るのがあるんだ……というか、この木星人はやりたい放題だなぁ)
そんな気持ちで、見つめる。3センチという小さな生き物は、いろんなことを瞬時に考えて行動をしているように見える。
「危ないですね〜」
相変わらず、天王星人はのんびりとした話し方をする。そして、可愛らしい小さなピコピコハンマーを振り回し始める。
「数打てば、一度くらい!」
と、可愛らしい動きまで追加された。ふわふわと漂う小さな生き物が、それぞれにピコピコハンマーを振り上げては下ろす。
――ピッ
――ピッッ
木星人の手が、プルプルと震え始めた。そして、ガクンと落ちていく。
握られていた、ピコピコハンマーは音を立てて地面に転がる。その震えは全体に伝染をしていく。
「……うぅ」
(あっ、すっかり忘れていた。天王星人の触覚には、毒があるんだった……)
普通なら、伝染することはあり得ない。しかし、群れを成しているこの木星人。彼らは、毒の肌をお互いに触れてしまう。結果、全体的に毒に侵されてしまうのだ。
しかもかなりの毒らしく、ピリピリと走る痺れにやって動けなくなる。死ぬことはなさそうだが、肌に触れた毒の重さによっては意識を飛ばす。
直接手を握ったあたり木星人は、かなりの痺れに苛まれているだろう。
「そろそろかと思ってましたよ〜」
(ますますこの天王星人が、恐ろしい)
――ピッ
ちゃっかりと紙風船をミニチュアサイズのピコピコハンマーで紙風船を割る。
一度では割れなかったようで、数回ピコピコハンマーを振り上げている。
その一つの紙風船が、割れた所で勝利の煙が上がる。桃色の煙。――天王星人の勝ちだ。
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