第21話 私も楽しみです!
普段生活をしている島に戻ってきて、さっと船から降りていく。しょげているシンは、下を向いたまま私のずっと後ろをついてくる。
(そんな、しょげなくてもいいのに。またこれ私が励ませって指示されるんでしょう? めんどくさすぎる)
つい思った気持ちが、大きなため息となって出た。私は足をとめて、シンが追いつくのを待つ。
「シン。もう次に、気持ちを切り替えようよ?」
私の顔を一瞬見てシンは、首を横に振っている。しかも、かなり激しく。
「俺はエマとは違うから! 無理だ! ……」
「次も
私はシンの言葉に被せるように、食い気味に言う。私の声の音量の方が勝り、最後のシンの言葉をかき消した。
「……でも……」
「私、次は一つ紙風船を割るから!」
私ができる励ましなんて、たかが知れている。うまく言葉を言えないし、何よりもシンの性格がまだ掴めていない。
大きな生ぬるい風が、肌を撫でていく。目の中に直撃をして、下を向いた。
「うん、俺も頑張る」
その風の中に紛れるように、シンの決意が小さく聞こえてきた。
「ピカピカ光らないと、やる気が出ないんじゃない?」
「おぉ! やっぱり光るのかこれは!」
「光るわけないでしょ?」
少しツンとした返事をしたが、シンはいつも通りに戻っていた。次はあの宇宙微生物の木星人とウミウシの天王星人との戦いだ。
どちらも小さなサイズ同士だ。どんな戦いになるのか、少しワクワクしている。めんどくさいシンの相手をしたあとなのに、私の足取りは軽やかだ。
(そういえば、叩いて被っての戦い方をもう一度やるのかな?)
ワクワクとした雰囲気が漂い、興味しんしんのスアがこちらにやってきた。じっと私のことを見てくるので、穴が開きそうだ。
「エマも、楽しそうにすることがあるんだね?」
「私をなんだと思ってるんですか?」
少し子供ぽく、私は頬を膨らませた。スアは、不思議そうな表情で瞬くだけだ。
「私だって、楽しみなことぐらいありますよ!」
私に感情が無いと思われてるのか、と少し悲しさを覚えた。しかし、それは私の勘違いだったようだ。
「楽しみなんてなさそうなエマが!? どんな楽しみがあるんだ?」
「ワクワクしてるよね」
今までなら、自分見方をしてくれていたイアンまでそちら側に立っている。それほどに、私はワクワクしていることが無いというのか……。
(そういえば、ここに来てから。私、めんどくさいことばかりに巻き込まれてたもんなぁ)
「次の戦いが、どんな戦いになるのかと思いまして……」
「なぁんだ〜、そんなことかぁ〜」
私からしたら、次の戦う相手になるわけなのでしっかり知っておきたいのだ。情報こそ、戦争に勝つための勝利の一歩だと思っている。
戦っていた敵同士なのに、なぜだかワニの海王星人と首長竜の土星人が仲良く話をしている。
「地球の草は、美味しくてですね〜。私たちもこれが欲しかったんですがね〜」
「おや、土星人も地球の食べ物ですか? 天王星人も同じようなことを……あ、我々はですねぇ。日光浴をしたくてこちらに来たいんですよ」
「「ははははっ」」
(昨日の敵は今日の友? 何があったら、こんな仲良く話せるようになるんだろう)
そんな二つの惑星人のやりとりを横目に、スクリーンのある部屋に入っていく。
締め切っていて、ジトっと湿度の高い空気が肌に張り付く。吸う空気もどこか重たい気がする。肺に溜まる澱んだ空気。
その空気感を飛ばすような、近くの部屋から大きな笑い声が聞こえてくる。
「エマ。さっきの戦い方は、スアとイアンがうまく動けて良かったよ」
ソフィーが、重たい空気のなか輝きを放つ美しい金髪を揺らしている。眩しいほどの笑顔に、目を細める。
「いえ。私は、何もしてません。……ありがとうございます」
「次も期待してるぞ。シンも、動きの素早さがいい。そうやって動いてくれ」
「はいっ!」
シンは、目を輝かせてソフィーに敬礼をした。私が頑張ってまで、励まさなくとも良かったかもしれない。
「頑張るよ!」
「うん、頑張れ〜」
私は、先ほどの席に座った。もちろんシンは、私の隣に腰を下ろす。この部屋に入ってきた時よりも、席がどんどん埋まっていく。うさぎの形の水星人がはいってきたりと、いろいろな惑星人で埋まった。
「そろそろ、はじまるのか?」
「まあ、そうじゃ無いかなぁ」
スクリーンを私は、見上げた。私たちが戦っていた時よりも、風が強いのか小さな雑草が風に靡いている。
(建物……壊れたままだ)
先ほどの戦い中に、首長竜の土星人がどんどんと薙ぎ倒していた。そのまま崩れてしまった状態で、次の戦いが始まる。
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