第20話 シンのしょんぼりモード。


 半分パニックになりつつ、心臓に手を置いて落ち着かせる。



 ――ダンッ



(いやいや、建物壊すのはダメでしょ!)


 建物がどんどん壊れていく音が聞こえてくる。それも、その崩壊していく音はこちらに近づいてくる。



 一際大きな身体の土星人の首が、私のいるところに追いついた。


 

「いたいた〜」



 のんびりとした声が耳に届く。その声のする方へ、パッと振り返り後ろに縛った髪が頬を叩いた。



「土星人は、目が悪いのにっ! よく見つけれましたね?」



「あぁ〜、私は目が良いみたい〜」



 間延びした声に、ゆっくりとした所作。馬鹿にした喋り方に感じて、少しイラッとしてしまう。



「そうなんですね〜」


 それなら、その挑発に乗ってあげよう。そう思ったのだ。また先ほどのお腹を狙おうと考えた。



 ジグザグに動いて、スローテンポのこの土星人には自分に当たらぬようにしてお腹を目指す。


 しかし、ゆっくり口調とは逆のとても早い動きで首を動かしてきた。



「私ってぇ、見た目よりも動けるんだぁ〜」


 私の真横に振り下ろされて、地面が大きく揺れてヒビが入る。その衝撃で、私の足がガクンと崩れる。



「土星人ちゃん〜、こっちだよ〜」



「いやいや、こっちだ!」



 スアとイアンが、それぞれ反対方向から建物から飛んで助けに来てくれる。

 スアが土星人の頭上、イアンが背中の紙風船を狙う。



 ――ピッッ


「うっ」



 ――ピッッ



「エマ、大丈夫? ボクが助けるよって言ったでしょ? 言った通りになったでしょ? ねぇ!」



 スアは、捲し立てるように私に詰め寄ってくる。心臓が耳で鳴るほど、私は崖に立たされていたようだ。


 スアのその少しうるさいぐらいの声が、なぜか今は心地よい。


 肩を大きく下ろして、近づいてくるスアの顔を見る。


「さすがです。スア先輩なら、助けてくれると思ってましたよ。ありがとうございます」



「ふふん! まぁね、ボクは強いからね!」


 

 ――パーン



 大きく青い煙が空に上がった。地球の勝利だ。




「やった! このままいけば、地球が優勝になるんじゃ?」


 スアが、可愛くぴょんぴょんとジャンプをする。大きな身体の背中側にいたイアンがこちらに来た。



「まだ、分からないけど。王手はかけれたよね」



「ねぇ〜。土星は、負けたの〜?」


 空を見れば、大きく漂う青色の煙。それぞれの惑星に振り分けられた色。それを見たら、一目瞭然なのにこの巨大な土星人はのんびりと聞いてくる。



「目がやっぱり、悪いんじゃ?」


 

 私は心の声が、ぽろりと漏れてしまった。しかし、ここにいる誰しもが思ったようで土星人を皆で見た。



「あぁ〜、う〜ん。空の色と同じでよく見分けれなくてね〜」



 相変わらず、のんびりとした話し方に力が抜ける。先ほどの素早い動きではなく、ゆっくりとした動きで空を見上げる。


 私も同じように空を見あげる。ふわふわと空に溶けていく青色の煙は、自分の無力さを感じさせた。


(今回は、一つも紙風船を割れなかった……)



 そんな虚になった私の隣で、スアがキャッキャっと飛び回っている。イアンは、脱力しながら私のように空を見上げた。


 

 シンは遅れて、両腕をぶらりと垂れ下げてしょげているようにしてこちらに来た。



「すみません……足手纏いでした……」


 

 私と同じ考えだったらしく、何を言っても立ち直れなさそうになっている。


「私も今回、何もできてません」



「違うんだよ! エマも新人くんも! 君たちが走り回ったおかげで、倒せたんだよ! まぁ、ボクは強いんだけどね!」


 スキップをして、歌いはじめた。慰めるのか自分に酔いしれるか、忙しい人だ。



 しかし私の心は、スアのその一言で救われる。



「スア先輩、私も頑張りますね!」



 口角をグッと持ち上げて、スアは満面の笑みになる。赤の瞳が隠れるほどに目を細め、口を開く。



「なんてたって! ボクは、先輩だからね!」



 変わらないスアに、完全に私の重たくなった足の錘(おもり)が外れた。私はスキップをするスアの隣を歩く。


 

「さすが先輩は、違いますね」



 軽くなった足取りで、寮がある島に帰る。勝利の空気に飲み込まれているが、シンの顔はまだ暗いままだ。


(これで負けていたら、笑えなかった。本当に、先輩たちのおかげだ)


「なんとか……勝てたから、良いんじゃない?」



 私は、シンを励ますように声をかけた。それが意外だったらしく、イアンが一瞬驚きニコニコと表情を変えた。



「う、うん。次は、戦力になる!」



「それは、私もだし……」



 私の言葉を遮るように両手を伸ばして、それ以上言うなとジェスチャーをしてくる。



「あー、そろそろ島にも着くし。気持ち切り替えてこう」



 

 

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