第19話 ネッシーと地球人!


 バタバタと大きな音を立てて、土星人は私の方へ向かってくる。


 さっとジャンプをして、土星人を私の方に意識を向かせる。赤と黄色のピコピコハンマーを降り、私はこちらだと全力でアピールをする。



「おい、地球人。土星人は怖いと知らないのか?」



 低い声で、土星人は威嚇をしてくる。しかし、その時にはもうすでにスアは背中に昇り切っていた。



 ――ピッッ




「はい、これで地球人の一点ね! また、ボクが一番だっ!」




 小山になっている土星人の背中から、軽く飛び降りて自慢げにする。そして、土星人がさらにもう一体顔を覗かせてきた。



「見つけた!」


 指人形遊びをする、大きな子供に囲まれている気分だ。大きく振りかぶる首から、二手に分かれて逃げる。



「エマ! 向こう!」


「はいっ!」



 長くいる訳ではないが、スアの傾向はなんとなく把握している。



(これだけ低空に首があるなら……スアなら建物上に行くだろうなぁ)



 ならば、私がやることは一つ。




「鬼ごっこ、はじめますよ!」


 建物を左右に行き来をして、注意をこちらに引きつける。先ほどの土星人よりも小柄だからか、動きは少し早い。



 ――ピッッ



 突風のような風と共に、可愛らしい音が響く。ブワッと巻き上がる私の前髪。その風に散っていく嫌な汗。



「鬼ごっこ?」



「えぇ。鬼さんこちらっ! 音のなる方へ!」



 ――ピッ……ピッッ


 私は地面をピコピコハンマーで、2度鳴らす。そして、走る。横目で建物の上のスアを確認する。



(その建物ですね!)



 ぐるっと遠回りになるが、巨大な身体の土星人が通れる大通りを進む。



「見つけたぁ」



 しかし遠回りをしたせいか、さらにもう一体に挟まれた。乾いた口を潤すように閉じて、舌を動かす。



「エマっ!」



 その声の先に、建物の隙間から手招きするシンがいた。シンのいる隙間へ私は、体を捩じ込ませて逃げる。



 ――ピッッ



 私のいた場所に2人の土星人が、ピコピコハンマーを振り下ろしていた。そのピコピコハンマーが上に上がるとそこには……大きな溝ができている。




「こわっ」



「イアン先輩が、向こうにいるから。俺はこっちに行く」



 戦いになった途端、人が変わるシン。思わず目を見開いて、シンの指示を素直に受ける。


「わかった……」



 軽く服についた埃をはらい、立ち上がる。そして、シンの指示をしたその先へ私は向かう。



「イアン先輩! こっちです!」



 ふたりの土星人の前にもう一度立ち、交互に振り下ろされるピコピコハンマーから逃げるように転げ回る。

 さっと動かした身体は、スレスレでかわす。



 そして、それに反撃をするように私は小柄な土星人の足元へ走っていく。


(たしか、ここが弱いはずっ!!)



 ――ピッッ



「うぎゃぁ!!」



「当たり、かな!」



 土星人は、お腹がとても弱い。地球人の鳩尾のような感じで、お腹を叩くと力が抜けていくのだ。



 その小柄な土星人の首が、一気に地面に落ちる。その落ちる勢いは、りんごが地面に引き寄せられるような勢いだ。そのスピードから逃げられず、もう一体の土星人の頭に激突した。



「いだぁぁ」



「はい、スア先輩とシン。紙風船を叩いてください」



 肩で息をしながら、2人に今だと声をかけた。もうこの状況だから、誰が見ても今がチャンスだと言うのは明白だろうが。



 ――ピッッ


 ――ピッッ



 ほぼ同時にふたりは、土星人の紙風船を叩き割った。



「「エマ! すごいなっ」」



 スアとシンは声をハモらせながら、私に近づいてくる。しかも、走る速度まで似ている。



「あ、ありがとう、ございます」



 少し逃げ気味で、私はそう短く答えた。




 ――ピッッ



「まだ、終わりじゃないよ?」


 一番大きな身体の土星人が、頭だけをにゅっとこちらに伸ばしてくる。

 小さな目をさらに細めて、ニヤニヤと笑っているようにも見える。



「スア……」


 イアンがスアを呼び、耳打ちをしている。私たちには、何を言っているのか聞こえない。


「わかった」


 スアの声に、私はぴくっと反応をする。そして、イアンの顔とスアの顔を行き来する。



「なぁ、なんて言ってる?」



 (知らないよっ!)


 ヒヤリとした汗が首を伝う。ゆっくりとした動きだけど、周りの建物を投げ倒しながらこちらに近づいてくる。



「エマ。悪いんだけど、ボクはここから単独行動するから! シンとエマで。イアンも単独ね! よーい、どん!」



 よくわかっていない私とシンは、口をあんぐりと開けて立ち尽くす。しかし、コソコソと話していたふたりは一瞬にして消える。



「えっ?」



「と、とりあえず。どうにかしないと……」



「どうにかって! エマ?」



 (私に聞かないでもらってもいい? 分かってないの私もだから……)


 そう思いつつも、この危機的状況をなんとか打破しなくてはと頭を捻らせる。



「と、とりあえず……。二手に分かれる!」


 シンの背を軽く押し、私はシンを押した方とは反対に向かって一目散に逃げた。



 (とにかく、どうする? シンなら……いや、あの頭の中を教えてもらわないと話にならない)


 

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