第18話 海王星vs土星人!


 さぁ、トーナメント第2回戦目がはじまる。


 地球人対、土星人。土星人は、大きな身体をもつ首長竜のような見た目をしている。首の威力が凄まじく、前回のワニの見た目の海王星人のガラスドームを粉々に叩き割っていた。



 それに対して、怖いもの知らずなスアでさえも手が震えるほどだ。

 私は、あれに当たらなければ大丈夫。などと呑気に捉えていた。



「エマ! 今日も勝つよ!」


「エマ!? スアが名前を呼ぶなんて……そんな仲良くなったんだ?」


 

 イアンが、言葉が見つからないというように間を開けて言葉を紡いだ。スアは、 "イアン" を除く他の人のことを名前で呼ばない。

 ソフィーに対しても、 "部隊長" と言っている。



「そうなんだ! ボクの相方なんだから、当然でしょ!」


 

 スアはイアンに、なぜだか鼻高々にしている。腕を組んで、少し顔をあげてにやりと笑った顔。



「エマ……、何かあったら僕に言っていいからね?」


 

 イアンは、私の肩を軽く叩いて同情の念を送られた。このちぐはぐなグループのトップである、イアン。私からしたら、そっちの方が同情なのだ。



「あぁ〜。まあ、大丈夫です。今のところは……」



 (本当に何かあった時に、助けてもらえるように濁しとこ……)


 それにしても、シンはものすごく静かにしている。おかしいと思い、私は彼のことを見る。シンはピコピコハンマーをじっと見て、固まっていた。


 (あれは、何をしているんだろ?)



 眉を上げて下げて、目を細めてみたりピコピコハンマーを顔に近づけてみたり……明らかに挙動不審だ。


「あの、イアン先輩。シンは何を?」



 イアンは、横目でチラリとシンの様子を伺う。そして、何か分かったようで頭を押さえため息をつく。


 なんだか、質問をしたのがいけなかったのかとさえ思えてくる。



「あっ、えっと?」



「あぁ、ピコピコハンマーをピカピカだと勘違いをしていてね……。どうしたら光るんですか?ってねぇ」



「光らないって言ってあげなかったんですか?」



 押さえていた手を離して、私の方に顔をずいっと近づけてきた。そして、ヒソヒソと声の音量を下げて文句を言う。



「言ったよ! でも、エマがそう言ったって! エマもそんな変なこと、言ってなかったよね?」



「はっ? 言ってませんよ?」



 ピコピコハンマーだと、言った。ピカピカは、否定したはずなのに。私が、言ったことにされている。


(いやいや、おかしいでしょ!)



 イラっとした気持ちが顔に出て、眉がぴくりと動く。その表情と声が、怒りを隠す気もないのがバレバレだ。




「うん、知ってるよっ! 聞いてくれないんだから、困ってるんだよ」



 もはや、その可哀想なイアンに笑いが込み上げてきた。こんな時に笑うなんて不謹慎だと、唇をぴくぴく動かしながらも我慢する。


 それさえもイアンには、お見通しなようだ。近づけていた顔を離し、大きなため息をついた。



「笑いたければ、笑ったらいいよ……」



「いえ! 大変ですね!」


 そんな会話をしていると、長身のソフィーが手を軽くあげてやってくる。



「さぁ、第二回戦だ。地球のために頑張ってくれ」


「はいっ!!」



 昨日と同様に、頭には紙風船を手にはピコピコハンマーを握る。


 地球人と土星人は、島の端と端に離れていく。



「エマ、ボクは昨日教えてくれたルートを走ってく! だから、反対側の同じような道を選んで!」



「分かりました」


 簡単な会話をして、さっとお互いに背を向けて走る。なるべく早く足を動かして、肺の奥に空気を送り込む。



 上を見上げると、ゆっくりとした動きで土星人が歩いているのが見える。


 (いや、意外とこれって……こちらが有利なのかも)



 私は、うすら笑みを浮かべて一番近くにいる土星人の背後に回り込む。土星人の動きは、身体の重さでかなりゆっくりだ。


 私は建物の影から少し顔を出して、スアの動きを確認する。同じことを考えていたのか同じように顔を覗かせて、手を振っている。



 やはり、スアの身体能力は高いようだ。私が息を切らしそうな速さで走ったのに、スアは涼しげだ。

 軽く息を整えて、私は頷いた。



 スアは口パクをして、私に何か伝えてくる。目を凝らしてスアの口を見る。



 ――ボクが先に行くから、エマはあれと戦って。



 私はコクコクと首を縦に振って、スアの口パクに同意をした。その頷きを見て、スアが足を動かした。


 それを待っていたとばかりに、土星人は首を振り回した。近くの建物に振り回されたピコピコハンマーが、ぶつかる。



 ――ピッッ



 音に反して、建物がぶつかった衝撃で崩壊していった。血の気がさっと引いて、指先から冷えていく。

 冷や汗がたらりと額を流れ、口腔内に溜まった唾液を嚥下した。


 

「エマ! ボクの言ったの忘れたの?」


 スアの声に、私は一瞬止まった足を動かした。もうすでにスアは背中によじ登り、振り落とされないようにしがみついている。



「土星人さんっ! こっちですよ!」


 土星人の意識が、背中に乗るスアに向いていた。それを私側に、向ける。



 ゆっくりとした動きで私の方を見る。小さな豆粒の目を瞬き、私の存在を探す。




「目が悪いって、不便ね〜」


 挑発するように、土星人に声をかけて私は目の前をうろうろする。



 ――ピッッ


 

 私は自分の居場所をこっちだと示すように、地面をピコピコハンマーで叩いた。



 その音で私の場所がわかったのか、ゆっくり脚をばたつかせてこちらに向かってきた。

 

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