第11話 シンとスア、何を言ってるの?


「新人よっ! 投げるのも命中、ちゃんと振り下ろしても命中! すごいじゃん!」


 スアは、褒めるときはしっかり褒めてくれるようだ。しかも、目をこれでもかというほど輝かせている。瞬きするたびに、星が落ちてきそうなほどだ。



「ありがとうございます。スア先輩も凄かったです!」



 にやっとスアは笑って、赤の髪の毛をスルッと撫でた。赤と黄色のピコピコハンマーを肩に乗せられ、赤の髪がその上に落ちていく。



(おんなじ赤色で、境界線がわからないなぁ)



 ずいっと顔を寄せてきたのは、もちろんシン。子犬のように、自分のことも褒めて! と目で訴えてくる。


 視線を一度外しても、そのキラキラした視線が痛い。さらには、隣にいたイアンにも肘で小突かれてしまった。



「シンも、カッコよかったよ〜」


「だろ??」



 私は、そういえば。と思い出した。

 

 

「あっ、何よりも! 助けてくれて、ありがとう!」


 もはや、その言葉はシンの耳には届いておらず胸を張った状態で鼻を高くしていた。 『カッコよかったよ〜』 の棒読みでさえ、彼には嬉しかったようだ。



 パーーーーンッ……


 そう音を立てて、試合終了の合図が鳴り響いた。青色の煙が上がった。地球人の勝利だ。



「これが、ピカピカハンマーなのかぁ」



 太陽の光にかざして、変なことをシンが言い出した。



(いや、ピコピコハンマーだし。しかも、今それ言うべきことなの?)


 何か大切なものでも見るかのように、太陽の光を利用して角度を変えてじっくり見ている。




「ぷっ……はははっ」



 イアンがついに吹き出した。私もそれに釣られて、我慢していた笑いが爆発した。


 またしてもなぜ、イアンと私が笑っているのかわからないとシンとスアはキョトンとしている。それがまた、笑えてくるのだ。



(なんで、そんな面白いの? このふたり、どんな頭してるの?)



 大爆笑の2人と、きょとんとした2人。なんとも意味のわからない状況だった。




 スタッと降りてきたソフィーは、私たちの光景を見て固まっていた。




「あっ、あ〜。なんだ? この状況は?」



 答えられるのは、シンとスアだけだ。しかし、この2人はなにが起きているのか理解していない。



 結果、イアンと私の笑いを堪える声が聞こえるだけだった。


 流石に上司に対して、失礼な態度だと思い私はとりあえず手を顔の横に上げた。



「おお。笑っているエマが、答えられるか?」




(違うんですよ。その2人は、よく分かってないから私かイアン先輩が答えるしかないんですよっ)



 ふぅふぅと、瞳を閉じて落ち着くように早く呼吸をした。



「ふふふっ、あの。この状況は、シンがっ……! ピカピカッ……ハンマーって……」



 やはり、言い終えることができないまままた笑い出してしまった。しかし、ソフィーはそれだけで言っている意味が分かったようだ。



「はははっ! そうか、お前これが何か分からず戦ってたのか!」



 聞き取りやすいハキハキとしたソフィーの声が、建物から跳ね返ってくる。



「ん〜、なんとなく理解はしてるっす! ただ、名前がなんだったか……って、なんで隊長まで!」



 自分が原因で笑っているのは、シンでも理解ができるようだ。垂れた子犬の耳が見えてくる。



「いや、いいんだよ。お前はそのまま……純粋なままでいてくれ」



 そう言ったソフィーは、シンの頭をふわっと撫でる。きらりと光る黄色の瞳を大きく開き、手を打った。手の音がこの場をピリッと引き締める。



「我々の勝利だ。次のトーナメントに進む。さぁ、向こうに戻るよ」



「はいっ!」



 兎にも角にも、地球が勝てた。私も、このチームの一員として5匹中の3匹倒した。かなりの成績だろう。



(ま、1匹は投げたピコピコハンマーが当たっただけだけど!)



 

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