第10話 ちゃんと戦うよ!


 私とスアは、建物の隙間からこそっと覗く。その先には、シンとイアンがいた。



(な、なにしてんの?)



 ふたりは、何やらダンスをしているようだ。シンは、かなりノリノリに腰を振ったりしている。



「あれは、おびき寄せ作戦! だね!」



 私に顔を向けたスアは、親指を立てて口角を上げた。私は、思わずパチクリと目を見開く。



「シン、発案なんですかね?」



「え〜どうかな?」



 イアンは、顔を下に向けて仕方なしにやっているように見える。これを見ればシンが、言いはじめたように感じるのはきっと私だけではないだろう。



「どうって……」



「しっ!!」



 人差し指を唇に当てて、聞き耳を立てて状況を確認する。わずかだが、地面の揺れを感じる。そして、その揺れはだんだんと大きく変わっていく。



 徐々に大きくなる揺れにスアは、歯をギュッと噛み締めてぎりっと音を立てた。


 チラリと見ると、まだふたりはダンスを披露している。この振動に、気がついていないように見える。




(まずい……でも、声をかけることもできない)



 私の視線は、シン達とスアを行き来する。スアは、どこか一点を見つめ難しい表情をしている。私の視線には、気がついてたあえて無視をしているのかわからない。



「……っ、スァ……」



 私の小さく紡ぐ声を、後ろからやってきた人物によって遮られた。



私たちはその大きな影が目に入り、ブワッと身の毛が立つ。ギュッと二人で抱きつき、恐る恐るその人物をみあげた。


 

「せ、先輩?」


「な、なんだい。新人よ」


「非常にまずいです」


「う、うん、そだね」


 


 ずいっと私のことを押し除けて、スアは脱兎のごとく走り去っていく。私はスアに手を伸ばすしかなかった。



「おい。そこの地球人。そろそろ、こちらに一点を……よこせっ」





 そう言うや否や、巨大ピコピコハンマーが私目掛けて振り下ろされる。


 ギュッと目を瞑り、その衝撃から身を守ろうとした。しかし、想像してた衝撃はなく。ものすごい風が、肌を駆け巡っていった。


 

 そして、私の体はふわりと宙に浮いた。



「おい。大丈夫?」



 目を開けると、私のことを軽々と抱きしめるシンがいた。先ほどまで楽しそうに踊っていたのは、嘘のようだ。

 そして、何よりも普段のシンはおちゃらけてるので驚きが隠せない。



「あ、ありがとう」


 

 詰まった喉がようやく空気を通す。肩の力を抜いて、一呼吸おく。


 姿勢を正して、シンの腕から私は抜け出した。しかし、そんなモタモタとしていて水星人の動きに気が付かなかった。



 サッとシンは、私の腕を引いて再度助けてくれる。



 ――ピュッ

 


「シ、シン! 私を囮にして、建物上から頭の紙風船を狙って!」


 自分がなんとかちょこまか走り回ればなんとかなる、そう腹を括った。とにかく、勝つこと。それが第一優先だ。



「いやいや、でも!」



(やるしかない)



 私は、シンを突き飛ばすようにして離れた。立ち上がって、ふわふわと舞うような動きをして水星人を引き寄せる。



 もう一体の水星人まで、こちらに向かってきている。もはや私が囮となってなんとかなるのだろうか、とさえ思えてくる。



 スアは、イアンと共に行動をしているようだ。二人がクロスするように動いて、私の方に向かってくる。



「新人よ〜! 今助けてあげるよ!」




「先輩!! 今、シンがっ」




 ――ピッッ




 私の後ろで、大きなピコピコハンマーの音が鳴り響く。ハッとなり私は後ろを振り返る。私を追っていた水星人の頭の上の紙風船は綺麗に割れていた。



「シン!」




 水星人の頭上から、軽くジャンプをして華麗に着地を決める。そしてピコピコハンマーで叩きながら、私の方に向かってきた。それも鼻を鳴らしながら。



「どうだ」



 なんだかその勝ち誇った顔が、イラつく。あんなおちゃらけ人間よりも私は、使い物にならないとでも言われている気分になる。




「今回は、助かった。ありがとう」



「新人くん! お前なかなかやるなぁ!」



「そんなことないっす!」

 


 シンは、ふふんと鼻歌を歌い始めた。スアが褒めるものだから、さらに胸を張って偉そうに点を仰ぐ。しかし、まだ一体こちらに向かってきている。



 シンとスアが、キャッキャと盛り上がっている。それに対して、私たちは水星人の存在を思い出していた。



(もうこのふたりは、置いていっていいのでは?)



 少ししらっとした視線を、二人に送る。その意味に気がついたのかイアンは、私の肩を叩いた。私と目が合うと、軽く腕を振って動き出す。



(私だって、ちゃんと戦えるんだから!)



 イアンが走り回り、私はその動きに合わせて建物を挟んでついていく。



 ――ピュッ



 大きなピコピコハンマーが、イアンを狙ってズドンっと振り下ろされる。

 ささっと細かく動くイアンは、全く当たらない。


 走るたびに、自分の頭上の紙風船がガサガサと音を立てているのが耳障りだ。



 水星人が大きく振りかぶり、イアンを自分の上半身ごと前に下ろしてくる。



(今だっ!!)



 左にいるイアンの方へ建物の間を走り抜ける。水星人の頭上の小さな紙風船を目指して、ピコピコハンマーを振り下ろした。



 ――ピッッ



 振り下ろしたピコピコハンマーは、綺麗に水星人の紙風船を叩き割った。




 苦しいほど走り回り、短く息を吸った。肺に空気がしっかり入り、ようやく体全身に酸素を巡らせていく。



 

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