第9話 スアはかっこいい?


 水星人の股下を潜り抜けたところで、スアが再度同じように建物から飛び降りてきた。インカムから時間は経ってないので、急いで建物の上に駆け上がったのだろう。



「後輩よっ! ボクの凄さがよくわかったかっ」



 上から降ってくるスアは、迫力満点の笑みを浮かべている。さっと持ち上げているピコピコハンマーも、今はカッコよく映る。



 ――ピッッ



(いや、前言撤回。音が面白すぎる)



 しかも、前回のようにはうまく行かなくてスアのその攻撃は当たらなかった。さらには、もう1匹こちらにきてしまった。



 私は、そのもう1匹にスアより早く気がついていた。そのため、スアに向かっている水星人の頭を後ろから狙った。地面に近い私。それに対する相手は、建物の屋上に近い。そんな頭を狙うにはと私は、ピコピコハンマーを投げた。



 私の頭上にいる水星人を狙うスア。スアを狙う水星人に、私がピコピコハンマーを投げる。という謎の三角関係が浮かび上がった。





「うあああ! わたしの紙風船がああ!」



 私のピコピコハンマーは、狙い通り紙風船に命中をした。水星人は嘆くように、頭を抱えて地面に頭をつけている。


 しかし、私たちは喜んではいられない。私の手元には、投げてしまって武器がない。さらには、いま倒した水星人のピコピコハンマーは巨大すぎて持てもしない。


 つまり、自分の投げた武器を取りに行かなければならない。


 


 今まで、ちょっとズレがあったスアでさえ焦っているようだ。私の手元と飛ばした先を視線で、行ったり来たりした。



「ボク、投げていいなんて言ってない」




 その発言はすなわち、我関せずということだ。そして、顔を逸らされてしまって倒せなかった頭上の水星人に意識が完全に向いている。



「でも、スア先輩だって…… 私のおかげでなんとかなったんですよ?」



「そ、それとこれは、違うでしょ? 早く武器取りに行ってきなよ、新人」



「はぁい、先輩」



 私は、小走りで武器であるピコピコハンマーを取りに行く。やはり 『先輩』 の言葉に弱いようで、その単語にぴくりと反応を示していた。


 しかし先ほど、私を突き放したばかりで手放しに喜べないでいるようだ。



「新人なんだから、を待たせないでよねっ!」



 私の背中に、 『先輩』 の単語を強調されたスアの声が降りかかる。急ぎでその武器を手に取った。



 さっとスアは身を軽く躱(かわ)して、攻撃してを何度も繰り返していた。お互いにピコピコハンマーは、毎度地面を叩く。可愛らしい音と、巻き起こる冷たい風。



「私、このふたりの間に入りたくないなぁ」



 しかし、スアの苦しそうな表情を見ているとそうも言っていられない。それに、私だってこのフォースのメンバーの一人。



 私は、腹を括り軽く走って私が倒した水星人のピコピコハンマーの上をトランポリンのようにしてジャンプする。



 ふわっと浮かんだ身体をうまく利用して、スアのことに意識が集中をしている水星人の頭を狙った。私が宙を飛んでいる間にも、ふたりから可愛らしい音が聞こえくる。



「スア先輩! どいてくださーいっ!」


 私は、振りかぶりながらスアに注意を促す。私の攻撃が、万が一にも彼女に当たらないようにするために。



 私の言葉に素直に、身を引いて対応をしてくれた。急に引いたスアに驚いた水星人は、一瞬フリーズをする。その一瞬を私は、逃さない。そのスキを狙って、水星人の紙風船を叩き割った。



 ――ピッッ



「よし! 新人よ、よくやったよっ!」



「スア先輩のおかげです」



 これで、スアと私の二人で3匹倒したことになる。向こう側に、他の2匹がいるはずだ。しかし先ほどから、向こう側から音が聞こえてこない。



「おかしいですね」



「何がおかしいの?」



 スアは、気にならないのだろうか? 異様なほどのこの無音の空間が。ピコピコハンマー独特の可愛らしい音は、聞こえて来ない。

 さらには、終わったときに入る予定のソフィーの合図は一切ない。



 何か情報をと私は耳をそば立てて、インカムからの音を拾い上げようとした。しかし、ノイズ音が微かにするだけだった。




(残り、2匹…… 音が聞こえないということは、どっちかがやった? いや、終了の合図はない)


 

 チラチラと私は、ソフィーがいる建物に目を動かす。しかし、ソフィーは一点を見つめるのみだ。



「ねぇ〜〜え! まだ終わってないよ? 新人!」



 私の目の前に赤髪が垂れてくる。サラッと降りてきた赤の髪の毛は、私の前で振り子の動きをする。



「スア先輩、こんなに静かなのっておかしくないですか?」



「ん〜? そうかな? そんな時もあるよね!」



(なんて呑気なんだ)



 スアは、くるりと軽快にターンを決めた。そして、腕を振りながら鼻歌を歌い、歩き出す。少しスキップぽく跳ねて歩くので、頭上の紙風船が揺れ動く。


 軽快なスアの足取りとは打って変わって、私の足は重たかった。



「あっ、新人くん! こっちっ!」



 ハッと何かを発見したようで、私を手招きして建物の隙間から覗くようにジェスチャーをする。

 

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