第6話 おふざけですよね?


 イアンがマップを広げた。私とシンが、身を乗り出してマップを覗いた。

 なんだか、シンと同じことをして内心嫌になる。私はどうしても思ったことが顔に出るようで、イアンが私の顔を見て眉を下げて困り顔になってしまった。



「ねぇ、イアン! ボクは単独行動させてよね!」


 スアは、私とシンの間を割り込んできた。肩に手を置かれ、ぐっと体重をかけられる。スアの赤い髪が私の首をくすぐり少しこそばゆい。


「スア…… お願いだから、大人しくして。君たち2人には、僕たちそれぞれと一緒に行動をしよう」


「うぇっ!」


 あからさまに嫌だという声がスアから聞こえて来た。私としては、面倒だしこの2人とは別行動をしたいと思ってしまう。


 しかし、彼ら2人をペアにしたら話にならなさそうだ。私の考えとイアンの考えはおそらく同じなようで、私に申し訳なさそうな視線を送られた。



 その視線だけで理解をしてしまい、思わずため息を漏らした。



「俺は、誰とペアっすか!」


 シンは、キラキラと目を輝かせて質問をしている。手まで上げて、純真無垢な視線に流石の私でも文句は言えなくなる。


「シンと僕。スアとエマでどうかな」



 やはり、私の思っていた通りとなってしまった。しかし、会話にすらならないシンよりは良いだろう。



「ボクの邪魔、しないでよね! 新人!」


 スアは、私の肩に置いていた手でバンバン叩いて鼻を鳴らした。前のめりになった私を胸を少しそらして、見下ろすように見てくる。


「ご指導…… お願いします。先輩」


 痛くはないが、叩かれた肩をさすりながら返事をした。

 スアは "先輩" の言葉に目を開いて輝かせ、満面の笑みになった。鼻歌を歌うほどの上機嫌振りだ。


(あれ? 意外と単純な人なのかな?)


 私は、先輩に対してとてつもなく失礼なことを考える。言い方次第では、上手く使えるかもしれないと。その考えがやはり顔に出てしまい、笑ってしまった。


 シンは、大きな声で意気込みを語っているようだ。やかましいほどの声量に、イアンは手で静かにするように促しているが効果をなしていない。



 水星人は、かなり大きな身体をもつので私たちは建物の物影を使って挟み撃ちをしようとした。単純な作戦ではあるが、耳が良い水星人を欺くにはこの案が有効だろう。


 戦場となる島を真ん中で区切り、そこからスタートとなる。頭に紙風船をつけられ、戦争に参加する格好とは思えない。

 普通のサイズのピカピカハンマーを手に握り、腰にもう一つさしている。



(なんか、これ…… おふざけのテレビ番組のやつなんじゃ?)


 想像以上に、軍の服を着ているのにふざけた装備というチグハグ具合に笑えてくる。軍の服は、黒のカッターシャツに黒のパンツスタイルでスタイリッシュなスタイルだ。

 ピタッとしたパンツは、緩くない分動きやすい仕様になっている。



 スアとシンは、真面目な顔で戦争前といった面持ちをしているが私とイアンは笑いを堪えるのに必死だった。


 他のチームからも笑いが起こっている。部隊長のソフィーでさえ、全員がこの格好をしている光景に吹き出している。

 スアとシンは、お互いに顔を合わせて私たちが笑っている理由がわからなさそうに首を傾げている。


「ゔゔん! 君たち、準備が…… はははっ。揃ったなら行くぞ」

 


 ソフィーは咳払いをして、笑いを吹き飛ばそうとしてる。


 シンは、肩にピコピコハンマーを乗せてぽんぽんと肩を叩く。その度に、可愛らしい音を立てている。シンの大きな身体に似合わないその可愛らしい音に、私も耐えられず吹き出した。



 私の隣に立っていた、イアンも笑いを堪えながらも私のことを膝で小突いてくる。


(いや、自分だってほぼ笑ってるのに!)



 少し腑に落ちないが、なんとか体裁を整え私も戦闘モードに気持ちを切り替える。首のカッターシャツを一番上のボタンを開けて、肩をぐるぐる回す。


 ソフィーから私もピコピコハンマーを手渡され、頭に紙風船を付けられた。

 そんなわけもわからない姿の私を、シンは真面目な表情でうんうんと頷いて見てくる。私はそんなシンが、少し羨ましくも感じはじめた。


「さぁ、私たちの犠牲の上に平和は成り立つ!」


 ソフィーの声が、凛としたものに変わる。その声に気が引き締められてこれから本当に宇宙大戦争が始まるのだと感じた。



(ま、たかだかピコピコハンマーでしょ? 犠牲って言ったって…… ねぇ)



 我々の今いる人工島から、ジェットエンジンのついた船で隣の人工島へ移る。そこには、もうすでに水星人が並んで立って待っている。



 地球でいうところの、ロップイヤーのような容姿の大きなうさぎは真っ赤な鼻をひくひくと動かしている。小さいうさぎがすれば可愛いはずのその動きでさえ、この大きさになってしまうと可愛さのかけらも感じられない。


 ズンっとした佇まいで、見下ろされる私たちは彼らにとって指人形のようなものだろう。



 さらには、先ほど "たかだかピコピコハンマー" と言ったことを訂正したくなるほどの大きさのハンマーを持っている。


 それなのに、頭につけている紙風船は私たちと同じサイズなのだ。



(どう言う概念なわけ? 普通どっちも大きいか、どっちも小さいかでしょ)


 

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