4ー2「会話に夢中」
「なあミミィル。ところでどうしてあの村はあんな風になっちゃったんだろうな」
僕の肩にちょこんとしがみついているミミィルに尋ねてみる。
「うーん。《記憶》の中で見た男の人の発言からしても一番あり得るのは、何者かに襲撃された可能性ミルね」
「襲撃って……でも、やっぱそういう感じだよなあ……」
《記憶》で見たミミィルのいう男の発言が頭に浮かぶ。
『み……皆、殺されました…………。ア……アヤツの……アヤツらのせい……で……』
この言葉からして、少なくとも自然災害ではないのだろう。
「というか、とりあえず彼女に会ってどうするんだ? もしかして、その《ギミルマ》とやらを解くことができるのか?」
現在、僕たちは《記憶》を頼りに、深山にある彼女の住む山小屋へと足を動かしていた(否、足を動かしているのは僕だけだった)。
「ううん。アトタ、それはできないミル」
僕の問いに、この兎はかぶりを振った。
「じゃあどうする気なんだ? やっぱりまずは村の状況を確かめに行った方がいいんじゃないか?」
「勿論それもありミルけど、でもおそらく村はまだ無事ミル」
「? どうしてわかるんだ?」
「さっきも話に出たミルけど、ミィたちが見た《記憶》の最後の方――建物の下敷きになっていたあの男の人。あの人はまだあの怪我をしてそう時間が経っていないように見えたミル」
「あー確かに。というかそもそもあの村自体、ああなってからまだそんなに時間が経っていないような感じもしたな。なら、少なくとも半日くらいは後のこと――ってことか」
「それよりもアトタ」
僕が素直に納得していると、ミミィルは注意喚起するように話題を変える。
「アトタはもっと過去を変えることの危険性について理解しておいた方がいいミル」
「過去を変えることの、危険性?」
どういうことだろう? と小首を傾げると、肩に乗る兎は、ミル、と頷いた。
「例えば、もしアトタがこの時代に生きている、自分のご先祖様に会いに行ったとするミルよ。そこで自分が接触しちゃったせいで本来出会うべき二人が出会わなかったり、もしくは亡くなっちゃったりすると、その家系はそこで途切れてしまい、今のアトタという存在は生まれてこない――つまりは消えてしまうミル」
「ぐっ……」
突然の恐ろしい話に、少しだけ動揺してしまう。
「まあでもその辺は安心するミル。なんせこの島は実質鎖国状態――それにそもそも三百年後では滅んでいるミル。未来を変えても誰にも迷惑がかかることはないミル」
そう言うと、ミミィルは僕の顔を覗き込んできた。
「要するにミィが言いたいのは、過去では無闇矢鱈に行動してはいけない――ってことミル」
「ああ、肝に銘じておくよ……」
ここではなるべく慎重に行動しよう。
改めてそう思った。
「それと、同じ時代に同じ存在が実在することも出来ないミル。アトタはこの時代にはまだ生まれていないから関係ないミルけど、この時代のミィ――ヒャリナの山小屋で眠っているはずの《ウヨリンサ》は、ミィたちがここに来た時点で消滅しているはずミルよ」
「はあ、色々難しいな……ん?」
要領の悪い僕からすれば、さっきから頭の痛くなるような話ばかりだ。
なんて思ったとき、今までの情報を踏まえた上で、とある疑問が脳裏をよぎった。
「なあミミィル、ふと思ったんだけど、この時代のお前は彼女の山小屋にあったなら、どうして三百年後には滝上を流れる川の小舟に移動してたんだ? ……まあ結果的に僕はそのおかげで助かったわけなんだけど」
「ああそれは――」
「――誰? あなたたち」
――その時。
僕とミミィルの耳に一つの透き通った声音が響いた。
そして、僕たちはその声の主に心当たりがあった。
どうやら僕たちは会話に夢中で気付いていなかったようだ。
というより、鬱蒼とした森に潜むように建てられた小さな小さな建造物を遠目に視認することは不可能だったため、傍若無人に生い茂る草木を掻き分け初めて視界に捉えることのできた僕たちからすると、それは突如として現れた感覚だった。
「……って、ミミィル……!?」
そう。
僕らは心の準備が出来ていないまま、《記憶》で見た少女――ヒャリナに出会ったのだ。
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