1ー4「名案」

 あれからさほど時間は経っていない……ように思う。

 先程のイノシシと同様、森中で背後にいる角狼から必死に逃げていると――


「――っ川!?」


 幅三十メートル程の川に出た。

 またもや山と山を分断しており、僕の進行方向を断ち切っている。

 さっきの谷と状況は似ているが、今回は向こう岸に渡る橋のようなものは見当たらない。


「く、くそっ、どうするかっ……」


 横に曲がって川沿いを走ることも可能だが、そうしたところで……。


「はぁっ、はぁっ……。こ、このままじゃっ、一生っ、逃げ切れる気がっ、しねぇっ…………」

 

 息を切らしてきた僕の体力もそろそろ限界。

 何か良い打開方法を考えないといけない。

 と――そんな時。

 僕が見つけたのは、川端に浮かぶ一艘の小舟。

 その上には一本のオールと淡緑色の鞘に収められた一・二メートル程の細身の剣。

 

 木造の小舟は、川岸に立っている木杭にロープで繋げられている。

 川にプカプカと浮いており、流されないように留められているようだ。


「舟……そうだ! あれで向こう岸に渡れば!」


 深さ二メートルは優にある川を横断するのは、いくらこの角狼でも困難だろう。

 もし泳げたとしても四足歩行のため、かなり遅いはず。

 

 僕は川岸に辿り着くと同時に、思いっきりジャンプした。


「おりゃあッッ!」

 

 狙い通り、小舟の上に着地した。

 ズドーンと水しぶきが舞う。

 

 衝撃でロープが切れ、留められていた小舟が縛りから解放された。

 それは、僕にとっては都合が良かった。


 オールを使い、向こう岸に向かってひたすら小舟を漕ぐ。


「うぉおおおおおおおおおお――――ッッ!!」

 

 中間くらいまできたところで、僕は後ろを振り向いた。

 

 十五メートル程離れた、僕がジャンプした川岸。

 そこにいた角狼は、川には入らず、こちらを睨んで、グルルルルと唸りながら威嚇しているだけだった。

 悔しそうな歯軋りが聞こえ、苛立ちが伝わってくる。

 どうやら角狼は川に入ってこられないらしく、僕の作戦は功を奏したようだ。


 僕は今まで一方的に追いかけられていた仕返しに、舌を出し、べ~と煽ってみた。

 少しだけスカッとしたので、正面に向き直る。

 ――と。


「なぁっ!?」


 煽っている途中にも、片手でオールを動かしていたため、すでに残り三メートル程まで接近していた正面の川岸。

 そこには――



 僕を追いかけていた角狼と――、その角狼の足元には、僕がすでに二度発見している――

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