第50話 収斂契約――天照大御神

 八十神は尊に問いかける。

「……メイドたちはどうした?」

「安心しろ。寝てもらっただけだ。随分と慕われているようだな」

 尊はゆっくりと歩き、八十神と啓二を押しのけ、芽衣の元へ。

 右手から黄金色の輝きを生み出し、彼女の傷の手当をしていく。すると、傷口は塞がり、呼吸は穏やかになっていく。死の気配は消え去った。

 憂いの晴れた尊は、八十神たちに向き直り、

「どうする? 天蓋の破壊を邪魔しなければ争う意味もないが? ひなの言葉を借り、相互理解を深めるか?」

 答えは決まっている。

「収斂契約――闇御津羽(くらみつは)ぁぁぁぁぁッ」

 八十神が契約を行使した。大量の血液が刀の柄から発生し、第二の変幻自在の刃となる。

『貴方は世界の主役だと言わんばかりに、我儘にやりたいことをやっていいんです』

 この場に来る前に貰った天照の言葉を尊は思い出す。

 空を指さし彼女の契約を心から望む。願いは一つ、天照が笑える世界を作ること。天照と契約できるのはひなだけ。だが、それでも願う。資格がないのなら、資格者が自分だと無理矢理にでも思い込む。この世界は尊の認識によって作られる。尊は願う。無理でも願う。

(世界は認識でできている。俺がアイツの契約者として)

『勿論です。私の契約者は尊だけ。他の誰かが、世界がそんな決まりだとしても関係ないです』

 天照の声が聞こえる。

『契約とは力の行使にあらず。神と人とで新たな世界を生み出す御業』

「行くぞ――」

『はい!』

 尊と天照は声を重ね、

「収斂契約――天照大御神(あまてらすおおみかみ)」

 この力は、偽りの太陽を自称するかつての尊が生み出した虚構ではない。

 日本国主。高天原の統治者。光りと慈愛と真実を司る最高神の”真(まこと)”の力が、世界を塗り替えた。

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