第45話
地上では、怒号が飛び交う激しい戦いが巻き起こっていた。それとは正反対に、地面の下、黄泉比良坂は物音ひとつしていない。
尊は、ひなに心臓を貫かれ命を落とし、魂は神話に語られるように黄泉の国へと旅立った。
死してなお、山伏姿の尊は霧の中を進んでいる。黄泉比良坂を下り、黄泉の国の入り口を目指す。
(……地上ではひなたちが戦っているころだろう。……上手く力を使えれば、問題ないはずだが……)
尊は路肩の岩に座り、地上での戦いについて考えていた。ほんの少しの後悔と、それの比にならないほどの罪悪感がそうさせているようだ。
すると、
「お隣、よろしいでしょうか?」
「……俺の許可など不要だ」
「では……」
黒髪の女性が尊の隣に座った。長い黒髪の成人女性だ。背は高く、声には艶がある。
すると尊の姿が自分と違うことに気が付いたのか、いくつか問いを投げかける。
「あの、貴方も死んでしまったのでしょうか? 服装が……」
「……そうだな。服は知らないが、俺は確かに胸を貫かれ死んだ」
「そうですか。……痛かったですか?」
「あぁ、痛かったな」
「後悔はありますか?」
「……やるべきことと、やらなければいけないことを混同していた。俺の判断で、大勢の人間の負担を増やした。これは、明らかな采配ミスだった」
「……確かに。ひなさんは大変な荷物を背負っていますね。芽衣さんは、怒っていました」
尊は隣の女性を知っている。自分の記憶より、いくらか成長しているようだが見た目だけ。声も、話し方も何ら変わりない。
「……済まなかった、天照」
「いいえ。謝らないで下さい」
天照大御神が、尊を迎えに来たようだ。
「あれからどうなった?」
「現在、松江城にて出雲と戦っています。尊の託した物はしっかりと、皆さんが受け取っていますよ」
「……強いな。……迎え、ありがとう。最後に、話せて……嬉しかった」
尊は、久しぶりに直は言葉を口にした。
これ以上、心惹かれないように天照の姿を視界に映すことなく、死者の列に加わった。
天照はこの展開を予想していた。尊を説得するのは不可能。どうあがいても、素直に受け入れてはくれない。だから、
「――尊はまだ死んでいませんよ」
天照は尊の背中に生玉を押し付けた。
すると、ぼんやりと透けていた尊の身体が徐々に、実態を持ち始める。
「お前!? 俺の意思を無視して――」
「尊こそ、皆さんの意思を無視したのではありませんか? 償いの気持ちがあるなら、現世にて、今まで以上に働いてください。という訳で、さっさと戻りますよ!」
「待て。言いたいことが――」
天照共々、尊は黄金色の輝きに包まれ消えた。
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