第34話 尊
物心ついた時には、俺の隣には伊邪那美がいた。俺の全てを肯定して、欲しいもの全てを与えてくれた。
「尊、行ってらっしゃい」
アイツがなぜ俺の世話を甲斐甲斐しくするのか。天照を消滅寸前まで追い詰めたのに、何故見逃したのか。何故、天照の元へ行くことを許したのか。唯一理解できたのは、俺を誰かと重ねていることだけだった。
伊邪那美は知っているのだろう。俺が命を切り売りして戦う理由を。
それを理解していながら、手の平の上で弄び今日も御殿で怪しく笑っているのだろう。それでいい。俺も伊邪那美と同じ穴の狢だ。笑われてやろう。
「いつか、アイツと青空というものを……」
天蓋の謎。神が降臨した理由。世界に選ばれた人間とその片割れ。まだまだ、やるべきことはある筈だ。自惚れではなく、事実として俺にはその責務がある。それを放棄してしまうことを許さないで欲しい。
ひな、お前に全ての重責を背負わせることを恨んでくれ。
レジスタンスたち、俺の身勝手で世界をかき乱すことを恨んでくれ。
天照、親不孝をしてしまうだろう。恨んでくれ。……出来ることなら、お前は笑っていてくれ。愛している。
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