第29話
出雲との戦いから数日が経過。
尊が天蓋に開けた穴は既に塞がれている。どうやら、松江城には天蓋の修復機能が備わっているようだ。三種の神器のうち二つが松江城上空に配置されているのも、それが関連していた。
以前と変わらず、天照の集落を照らす日差しは尊が作り出した偽りだ。それを本物に変えるため各々が決戦に備えている。
天照は、久しぶりに社の外に出た。
すると、
「青いのが空なんでしょ! 見たよ!」
「アマテラスさまもそこにいたの?」
「たいようなんでしょ!!」
あっという間に子供たちに囲まれてしまった。
天照は彼らと視線を合わせるようにしゃがみ込むと、
「はい。私は、お空の上からみなさんを見守っていたんですよ?」
「ほんと!?」
「はい、本当です。凄いですか? 凄いですよね?」
「うん!!」
「かっこいい!」
子供たちは、一度だけ目にした青空に心奪われていた。
「それでは、”アマテラスは家事も料理も完璧だよ”ってみんなに伝えてくれますか?」
「なんで?」
「そうすると、皆さんも幸せになれるんです。もう一度言いますね? ”アマテラス様は家事も料理も完璧のとっても美人で優しい神様なんだよ”って伝えてください」
「わかった!! ゆうきくんに言ってくる〜。みんなも行こ!!」
子供たちの純真さに付けこんだ神は、
「いたッ!」
金色の錫杖による罰が与えられた。
「痛いです! 暴力反対です!」
「バカなことするな。……まだ、病み上がりだろう?」
目尻に涙をためる天照はつむじを抑えながら、
「先日の一件のお陰で信仰が集まりましたから、最近は元気いっぱいなんですよ。ほら、足もこんなくっきりと!」
十二単を持ち上げ、足をこれでもかと魅せつけている。日焼けのない細い足。筋肉も発達していないようで、不健康という印象が強い。
天照は体調の回復が嬉しいのかニンマリと笑いながら、
「あとは、手が完全に戻れば尊を撫でて上げられますね。そうですそうです! ほら、見てください! 少しだけ身体も戻ってきたんです!」
天照は、信仰を取り戻したことで全盛期の姿へ成長しようとしていた。現在は、十七歳程度。最終的には、清廉さを感じる大人びた女性へと成長するだろう。尊が出会ったときは、幼い子供だったことを考えれば、どれほど信仰を重ねてきたのかが伺える。
「……近々、出雲とぶつかるだろう。大人しくしておけよ」
尊は錫杖を鳴らしながら去っていく。
「おや、今日はのんびりする予定では? 折角なので、お昼寝でもと思っていましたけど?」
天照は、首をかしげながら声をかけた。
「すまないが、予定外の来客の相手をしてくる。何かあったら芽衣を呼ぶといい」
「……分かりました。危ないことは――」
「分かっている」
天照は、不安げな表情を浮かべていたが、
(……お前が笑える世界はもう直ぐだ)
見て見ぬふりを続けている。
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