第26話
出雲本拠地、伊邪那美御殿本堂にて。
『とりあえず、同心の奴らは粗方片付いたぜ?』
「ほぇ〜、流石啓二だね♡ それで? 尊って奴は? 殺した?」
『あ……』
「あ?」
「……忘れてた」
「きゃは♡ 流石啓二! おバカちゃん注意報出しちゃうよ?」
絵馬は啓二たちからの市街地制圧の報告を聞き、上機嫌だ。
そんな声を遠くに聞く伊邪那美は、本堂前の廊下に座り込んでいた。両膝を揃え左に投げ出しているだけなのに、しっとりとした冷たい色香があった。
「なに怒ってんの? 嫌なことあったの?」
絵馬は伊邪那美が放つ冷たさが普段よりも一段と温度が低いことを感じた。それは怒っているということだ。
「……いいえ、違いますよ。ただ……あの子が動いたようです」
絵馬は、何事かと伊邪那美の視線を追う。
「え……」
すると、絵馬は松江城の方角から巨大な威圧感を感じた。ふにゃふにゃとした浮かれた表情が一変、驚愕に染まる。
「これ……御子の気配……大きい、めっちゃ大きいじゃん!? ――ってか何あれッ!?」
東の奥から手前に向かって、闇がどんどん晴れていく。白い波が空をどんどん染め上げているような奇妙な光景だ。
空の異変ともう一つ、地上にも異変が起き始めた。
『あぁ、これは祈り……』
『太陽への祈り……生きていてよかった』
『ありがとう。ありがとう。……アナタ様の高潔な思い……感謝しかありません』
絵馬は、誰とも分からない声を聴いた。
「なにこれ……誰の声なの……」
「万物の喜び。……草木、動植物。命が、世界の全てがこの時を待っていたので。それは歓喜の声と感謝の声」
「これが自然の声なの……」
「絵馬は優しい子だから聞こえたのです。今の人間は、それに耳を傾けることを忘れている」
伊邪那美は白んでいく空をただ眺めていた。
「その力を操れるのは”世界で唯一の資格者のみ”。その筈なのに……」
伊邪那美たちが思い浮かべるその男は、
「――夜明けの時だ」
瓦礫となった石柱の上に立ち、世界を染め上げようとしていた。
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