第22話
市街地の一角、商店街のアーケードにて芽衣と啓二が戦いを繰り広げていた。
「んで? 姉ちゃんはこれで終いか?」
たった数分間で、芽衣はその場にへたり込んでいた。
「……うっ、さい」
全身に刻まれた夥しい数の切り傷。頭部から顔の半分を覆い隠すほどの流血。
芽衣の身体は既に活動限界を迎えている。腕を上げることも、立ち上がることも出来なかった。
「んま、頑張ったんじゃね?」
啓二の長槍が、芽衣の肩にそっと置かれる。気分次第で芽衣の首はいつでも落とされるだろう。
(右腕は……ダメね。左腕なら何とか……でも、足も……)
打開策を探るが何も思いつかない。
右肩の肉を大きく切り裂かれた芽衣に対して、啓二は疲労や怪我は一切ない。両者の力量差が如実に表れている。
「俺は、とあるお方を探してんだ。丁度、アンタのような選ばれた赤髪を持つ女をな? アンタの苗字、皇(すめらぎ)だろ?」
「皇なんて名前、どこにでもいるでしょ?」
興味なさげに、言葉を吐き捨てる。思い当たることがあるようで、芽衣は寂し気に薄く笑う。
「いねぇよ。資格ない者が持ったら天罰が下る」
「……赤髪なんて結構いるでしょ? ……ほら、八十神のメイドにもいるじゃない?」
男勝りな赤髪のメイド、よぉのことだ。
「俺が知る限り、日本全土でその赤髪を持つのは十人もいない。出雲に限ればアンタを含めて二人だけ。この理由分かんだろ? あのメイドにも皇の血が流れてんだぜ?」
「なに、本当に親戚なの? 道理で口が悪いと思ったわ」
薄々は感じていたようだ。
啓二は花のような明るい笑みを浮かべ、
「日光に帰ろうぜ? 殿が心配してんだよ」
「殿って誰よ?」
「アンタの妹だよ。今は、俺たちの殿様やってんだ」
芽衣は、仕舞い込んだ遠い記憶の中にいる快活な少女を思い浮かべた。
「……嫌。私は皇として生きるのが嫌だから日光を出たの。何をしても皇だから、誰も私を見てくれない」
芽衣の根本にあるのは自己証明。
「私は皇じゃないの――芽衣って名前があんのよぉ!」
痛みを押し殺して両足で地面を蹴り上げる。イメージするのは、バネを用いた跳躍だ。
啓二の顎に向けた鋭い拳を繰り出すが、
「……殿に似てるのは髪色だけか」
芽衣の命を削った攻撃は、軽くのけぞり躱される。
負けん気が痛みを超えたようで、両手を無理矢理動かしラッシュを開始。両手に刻まれた大小さまざまな傷から血が噴出するがお構いなしだ。
啓二はその全てをいなしていく。
「ダイダラを倒せたのは腰のナイフと戦闘経験を積めたおかげ。芽衣様は気力はあるが、力がない。典型的な――弱者だぜッ」
啓二が槍を握る手に力を込めた時だ、
「芽衣ちゃんをイジメるなッ!」
もんが啓二の背後に現れ蹴りを繰り出す。まん丸としたフォルムからは考えられない程に俊敏な動きだ。
啓二の視界外からの一撃だったが、戦場に立つ神経を研ぎ澄ませる武人には通用しない。
「おっと!」
確認することなく、もんの蹴りを受け止めると、
「神が前線に出るってのは面白い――なッ」
啓二は右手を大きく振り回しもんを持ち上げ、芽衣に向けて放り投げた・
「こっち来ないで――ぐはッ!?」
「ごめ――ぐほぉッ!?」
緊張感なく吹き飛ばされていく二人。商店街の奥の方へ消えていった。
戦いも一段落し、大きく息を吐き出す啓二は空を見上げた。
「太陽が……消えそうだな」
いつの間にか、空が暗くなっていた。
尊が浮かべた極小の太陽が徐々に小さくなっているのだ。
暫くすると消えてしまった。
「色男は死んじまったのか?」
啓二は振り返る。芽衣による反撃はない。
「……はぁ、期待外れか」
暗闇の世界を照らす出雲軍が灯す人工的な光りの中に、啓二は消えていった。
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