第12話

「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」

「アメ、いる?」

 無邪気な子供の声が聞こえる。

「にぃちゃん、おきないよ?」

「アメ、ダメ? イチゴ味?」

 誰かと会話しているようだ。

 すると、

「いっ、たぁ……」

 ひなが意識を取り戻した。

「損傷はないようだ」

「――そうですッ!? 子供たちは!?」

 勢い良く立ち上がると、足元に二人の子供たちがいることに気が付いた。

「アメたべる?」

「おはよ!」

 何が起こったのか理解していないひなは、おずおずと飴を受け取ると尊に説明を受けた。

 一通りのことを理解したひなは、

「……よかったです。子供たちが無事で、本当によかったです」

 瞳を潤ませながら、その場にへたり込んだ。

 子供たちを力強く抱き寄せ暖かい熱を感じている。

「あの、この子たちは……」

「オレが送り届けよう。慣れない戦い、ご苦労だった。芽衣はどうする?」

「私はひなちゃんと一緒に帰るよ。これ、持ってるし?」

 芽衣は銀色のカーテンを作り出せるお手製の勾玉を懐から取り出した。

「以前のように、勾玉を壊したら叫ぶんだぞ」

「そ、それは大丈夫よ!」

「そうか。ひな、その刀はお前を選んでいる。それを理解しておけ」

 尊は子供たちを引きつれて、銀色のカーテンの奥へと消えていった。

「ちょっと休んでから帰りましょうか?」

 戦闘はあっという間に終了した。尊と芽衣の活躍により損害は全くなかった。怪我人はひなだけ。

 その事実に打ちひしがれたひなは、

「……いる意味、なかったです」

 ビルの屋上に座り込み足元に広がる闇をぼうっと眺めていた。気を抜けばこのまま吸い込まれてしまいそうになるほどに、暗い吸引力に惹かれていた。

「気にしないでって言うのは簡単よね。どうだった? 巨人とタイマンは初めてでしょ?」

「何もできなかったです……やっぱり、私なんかが誰かをお守りしたいというのは――」

「ひな、聞いて」

 膝を三角に折りたたみ顔をうずめているひなは、目線だけ隣の芽衣に向けた。

「……私もアンタと同じなの。私、めちゃくちゃ弱いのよね?」

 予想に反した言葉だった。

 芽衣は恥ずかしそうに微笑みながら、

「私たち同心は、戦闘面で言ったら尊のワンマンチームなの。私だって何もできてないわ」

「そんなことは……」

「う~ん……どうせなら、一緒に反省会しましょうか?」

 ひなは思いの丈を芽衣にぶつける。芽衣も過去の自分と重ねているようで、尊と行動を共にして感じたこと、学んだことの全てを話した。

「どう? 私たちって、正義の味方じゃないでしょ? ただ、各々の目的のために集まった利己的な集団なのよ」

「皆さんからすればそうなのかもしれません。ですが、私から見たら、皆さんは正義の味方です」

 ひなは、この刀を託されたときの原点の気持ちを思い出す。

「弟がいたんです。裕って名前で。二個下の。……出雲の巨人に食べられて、何もできなかった。でも、尊さんや芽衣さんの戦いを見て改めて思いました。私も誰かの役に立ちたいって。友恵さんに託されたこの刀を使って……あの方の成せなかった正義を今度こそって……」

「これから沢山の選択をすると思う。盛大にすっころぶと思うけど、頑張って乗り切りなさい。その思いを持っている限りは大丈夫だから」

 芽衣の手を取り立ち上がったひな。

「ありがとうございます。私はまだかすり傷程度しか負っていません。複雑骨折するくらい、精一杯走り抜けて見せます」

 彼女の瞳には変わらず暗い世界が映っているが、先ほどのような不安はない。真っすぐな活力が眩い星空のように輝いている。

 その時だ、

「同心の兵となるならば、老会の皆さんに会って頂けませんか?」

 ひなの背後にうさんくさい青年が立っていた。

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