第11話

「すまないが、これから向かわなければ――」

「なになに? デートってこと? 勿論、オッケー! どこ行く、どこ行く? あ、尊が行きたい場所でいいよ? それとも、私が引っ張ったほうがいいかな? 私はどっちの尊でも愛してるよ?」

「芽衣。すまないが――」

「そうだ! デートの後は……ぐへへへ。ひな、アンタは先に帰ってなさい。ここからは大人の時間なの。アダルトでエロティックな空間で新しい命を授かる神聖な儀式が始まるの。そうよね、み・こ・と。ほら、私の身体、好きにしていいのよ? 滅茶苦茶にして? ほぅらぁ、ケダモノのようにグワッて、ガシッて男らしく――」

「――時間だな」

 尊が空いていた左腕で錫杖を振りかざし、

「ぐへッ」

 芽衣の頭を叩く。モグラのようにあっという間に地面に沈んでいった。鋭い痛みが走っただろうが、愛する男からの暴力なので満面の笑みを浮かべている。

「子供が泣いている。お前は来るか?」

 尊の鋭い視線を受け止めたひなは、

「はい! 私も連れて行ってください! 私には誰かを助けたいんです」

 眉はまっすぐに伸び、瞳には決意が満ちている。

「……いいだろう。行くぞ」

 尊が放り投げた刀を両手で受け取ると、

「はい!」

 目の前に出現した銀色のカーテンの中へ消えていった。


「――ここだ」

「はいッ!」

 尊はビルの間に飛び降りていく。

 ひなもそれに続こうとするが、

「えぇ!? 飛び降りるなんて無理ですッ!!!」

「階段使うわよ!」

「はいッ!」

 ひなと芽衣は階段を駆け降りる。数段飛ばしで歩幅を大きく、手すりに体重を預け飛び降りていった。

 ひなが到着した時には、戦いは既に佳境に突入。

「私も――ッ!」

 ひなは鞘を投げ出すと、両手で刀を握りしめ巨人へ突撃。

「てやぁぁッ!」

 手負いの巨人へ向けて刀を真上から振り下ろす。空気を切り裂く鋭い音を伴い巨人の腕に刃を振り下ろす。

 甲高い音の後に、

「あぁ?」

 巨人の不快そうな声。

「――ッ」

 巨人が持つ硬質な白い肌を断ち切ることは出来なかった。刀の動きが急停止し、ひなの表情がピシリと固まる。

「……アイツの仲間か? にしてはザコいな」

 品定めした巨人はひなに手を伸ばす。

「そんなの――うぐッ」

 ひなは、既に後方へ飛び退いていたが無駄だった。

「ツラはいいな。ちょいと細いが嫌いじゃねぇ」

 巨人は腕をゴムのように伸ばし、ひなの頭部をフィギュアのように弄ぶ。

「ぐぎぎ――離してくださいッ!?」

 手の中で藻掻くが逃れられない。

「敵に注文すんな、バカかよ」

「離して下さい!? アナタのような悪がいるから――」

「あぁ? 悪ぅ? 久しぶりに聞いたぜ。あれだろ、正義だの悪だので戦ってんだろお前? 友恵以来のバカな奴だぜ! 面白れぇ!」

「友恵さんを知っているのですかッ!?」

 指を押し返そうと全身を力強く動かし始める。”友恵”という言葉が、ひなに活力を与えたようだ。

 人形のように扱っていたひなによる反抗が強まり、巨人は見る見るうちに不機嫌になっていく。

「友恵さんは!? あの方は生きているのですか!? なぜアナタが――」

「――うっせッ!」

 巨人が腕を軽く振るった。

 二秒後、近くのビルの壁が一部崩壊した。

 ボールのように吹き飛ばされたひなが、瓦礫に埋もれていた。

(……そんなかんたんにっ……)

 ひなの視界が黒く染まった。

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