第6話
ひなの頭上には、未だ赤い太陽が輝き続けている。
「なんですか、それ……そんな力は知らない……まるで、出雲のようでは……」
ひなは尊が起こした現象全てが埒外の物であると理解した。強力な味方の出現ではなく、新たな敵と認識してしまうほどに、出雲の巨人と似た気配を感じたのだ。
「アンタ大丈夫? 御子を見たことないのね?」
怯え、震えるひなの横に芽衣が座り込んだ。
「あ、あの……御子とは、神と契約したという、あの……」
「そこら辺も含めて、ちょっと話しない?」
芽衣は、ひなからここに住んでいる経緯や、先ほどの件について事情を聞くと、
「尊、出雲兵の一人はここの出身なんだって。恨みも結構あるようだから、またここに来ると思うわ」
「ならば、住民の避難を優先する。部隊長に――」
「――あのッ!!」
すると、ひなが尊に駆け寄る。
表情には焦りが浮かんでおり、綺麗なストレートの黒髪はあちこちに乱れ跳ねている。
「敵兵はどうなったんですかッ!? こちらから追手を出したりはしないのでしょうか!?」
「そんなものない。今頃は車を使って遠くに見える城へと戻っているだろう」
「ならばッ!!」
ひなは拳を力強く握りしめ、
「それが理解できているのならッ! アキはそのまま……巨人たちも。それでは被害はなくなりません! 散った仲間たちの犠牲が本当に……無駄になってしまいますッ!」
「傷を癒した敵は再び誰かを殺す。ならば不幸の芽は摘めるうちに……ということか?」
「その通りです。人を殺すなど本来ならば……ですがッ!!」
力がこもった瞳に映る尊の表情は変化しない。
「それはお前がやりたいことだ。オレのやりたいことではない」
「……何を言っているのですか、意味が分からないですッ! アナタたちはレジスタンス! 出雲に反抗する方なのでしょうッ!」
「レジスタンス? オレは目的の一致のために協力している部外者だ。正確にはレジスタンスではない。まぁ、仮にレジスタンスだとしても追撃などはしないだろうがな?」
「アナタは起こりえる悲劇を無視して、自分を優先するのですか!? それは――」
「――まぁまぁ」
激化する議論をいさめるべく、煙草を咥えたひげ面の男性が間に入る。
「落ち着け、落ち着け」
彼はレジスタンス同心の銃撃部隊の隊長だ。名前は過去に捨てており、部隊長と呼ばれている。
「尊は言葉が足りねぇんだ。あれだ……あれ、敵兵を返したのはワザとだと思うぜ」
「ワザと……ですか?」
部隊長は右手の人差し指と中指を立てる。
「理由は二つ。一つ、出雲に付いて行った奴らへの配慮。追手を差し向けると、巨人の燃料タンクに使われるだろう。だったら、下手に刺激しないほうがいい」
中指を折りたたむ。
「んでもう一つ。天照様の信仰を広めるためだ。神ってのは認知と信仰により力が増す。敵側にも生存証明がされたら、その分まで力が増す。んで何点だ?」
部隊長の答えを受け、尊は薄く笑う。
「七十点をやろう」
「残りは何だよ?」
「オレは偽りの太陽。天照の代理執行者。奴は無駄な殺生は望んでいない」
その言葉を聞いた部隊長は、
「あぁ……そりゃそうだな。あれだ、オレらも気が立ってた……」
部隊長はレザーハットを目深に被り、悔しさが滲む顔を隠す。
尊は薄く笑みを浮かべ、
「気にするなとアイツなら言うだろうが――」
「そうです! 気にするな!」
空から十二単を着た少女がふわりと現れた。
少女の出現に青ざめた尊の肩に手を置き、風に乗った紙のようにひらひらと踊りながら着地した。
「勿論、無駄な血は流したくありません。ですが、私は家族が何よりも大切だと思っている神失格の者。皆さんの怪我がないことが何よりも嬉しいのです」
気が付けば尊たち以外の住民全員が、いつの間にか両膝をつき頭を下げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます