第5話

 傲慢不遜を体現した男の名は尊(みこと)。黄金色の錫杖を持つ天狗のような山伏衣装。ウェーブする黒髪と美丈夫と分類される端正な顔立ち。長いまつげと涼しげな瞳がひなを射貫く。

「あ、あなたは――」

「そこで座っていろ」

「うひゃっ!?」

 立ち上がろうとしていたひなの頭を錫杖で押さえつけると、尊の切れ長の瞳がアキと巨人を射貫く。

 シャラシャラとなる錫杖を頭からどかしたひなは、尊が着用する山伏衣装の背中の赤い紋章に見覚えがあった。

「……日出る太陽の紋……ッ!? レジスタンス同心(どうしん)ッ!? 天照大御神様の御子っ!? あなたが噂の――」

「――日輪よ」

 尊が錫杖を掲げると、上空に浮かぶ極小の太陽が赤く染まる。一帯が白色から赤色に変化した。

 だが、ひなは知っていた。

「ダメです!? その巨人はいくらでも復活ができるんです!?」

 巨人は地面から新たに生まれてくる。いくら強大な力だろうが、そのルールを覆せない。

 それと同時に、尊の強さも理解していなかった。

「――ひのとり」

 紅蓮の太陽から雫のような炎が生まれ、球体をなぞり落下した。

 その速度は、

「イギャァァアァァァッ!!!」

 知覚限界を超えていた。

 巨人の右腕に衝突した一滴の炎は、一瞬のうちに腕を焼却し炭に変化させた。炎は右腕を貫通し、下の地面一帯をも黒く焦がしている。

 余りの痛みにのたうち回る巨人に対して、

「去るがいい。貴様らにとって、この日差しは毒になる」

 尊が放つ圧倒的な強者の風格を前に、アキも巨人も弱者となり怯えることしかできなかった。

「ちぃッ!? ダイダラ撤退だッ!」

 アキと巨人は逃げるように去っていった。

 山間の元キャンプ場に吹く一陣の風が、戦いの熱を冷ましていった。


 西暦二千年。日本に異変が起こった。

 一つ、日本を覆うように三つのドームが形成された。

 二つ、神話に登場した神が降臨した。

 三つ、神と契約を結んだ人間が現れた。

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