二人の過去、家族の亀裂。そして普通な日常

「ただいま。」

「おかえりなさいお兄様。」

あの文化祭から色々変わった。

まず家に帰る時間が早くなったことだ。今までなら夜遅くだったが、学校が終わったら直ぐに帰るようになった。

可能な限り銀花との時間を作ることを選び、部屋に籠りながらも、銀花とよく遊んでいる。

システィさんとの関係も改善しようと頑張っている。

父親が再婚してから挨拶や食事のお礼ぐらいしかしてなかったが、ちゃんと会話するようになった。

「システィさんただいま。今日の晩御飯は?」

「今日はホワイトシチューの予定です。」

「楽しみしてます、何かあったら呼んでください。」

父親とは依然として何も変わっていない。変える気は無い。

あいつが自分がしでかした事をしっかり理解するまで、俺はあいつを許しはしない。

「お兄様。」

「なんだ銀花。」

「お父様と何があったか聞いてもよろしいですか。」

「嘘だろ!?あいつまだ話してなかったのかよ。そうだな・・・俺が話したらお前の事も話してほしい。それが条件だ。」

「分かりました。」

「お~しじゃあ昔話とするか。」


石塚家、父親の家系はいわゆる学歴主義の家だった。

それだけならただの堅苦しい家だが、その実『学歴しかみていない家』だった。

卒業後に何処に就職して、その後クビになって金食い虫になっていようが関係ない。

その家の中で学歴が良ければなんでも良い家に父親は生まれた。

父親はその家の中では頭は良くなく、世間一般の普通の大学に出て普通に就職した。

普通に生活し、俺の母親と出会い、時間をかけて結婚、俺が生まれた。

父親は生まれた俺に可能性を見出したのか、勉強を強要するようになった。

今思えば父親は俺を『第二の自分』として使いたかったのだと思う。

母親は変わり始めた父親に違和感覚え始めた。

そうこうしてるうちに高校受験が始まった。

俺は頭が良くなく、努力しても実らないタイプだった。現に中学受験に失敗してるほどだ。そんな俺を上の進学校に入れる為にありとあらゆる手段を用いて、俺に勉強させた。

その頃からだ。両親が喧嘩し始めたのは。

母親はいつも「やめよう」と父親に説得していた、それを父親はいつも「あいつの為のなるから」と、嘘だらけの言葉で嗜めていた。

そしてその高校受験は結論から言うと合格した。

付け焼刃でしかない学力のせいで、俺はすぐに落ちこぼれになった。

母親はいつも俺に謝っていた。止められなくてごめんなさい」と。

その一年後、両親は離婚した。

「凄い雑に説明したが、こんな感じだよ。」

「そうだったのですね。」

「俺はあいつの代わりじゃない、あいつは俺の代わりじゃない。だからこうなった。」

銀花の頭を撫でる。

「お前もそうだ銀花。お前も好きな事をしていいんだ。」

「はい!・・・こんどはこちらの番ですね。」

銀花の家は、外から見れば普通の家だった。仲つつましい夫婦と母親譲りの娘。

その実、その内側は父親が一番の上の家だった。

何をするにも父親に許可を求める、そして許されるの繰り返し。

そこに自由などなく、けれどシスティさんは何も違和感は無かった。

システィさんがこちらに来航して初めての心から許せる人が、銀花の父親だった。

そして結婚して銀花を生んだ。

その時点で既にその環境になっており、銀花もそれが普通であり、常識だと疑わなかった。

けれど自体は急変。父親の方の食事会の時に、何をするにしても質問する親子に怪しんだ父親方の親族が、システィに質問して事が発覚。

システィさん側の親族の呼んでの離婚騒動になったらしい。

そして今にいたる。

「教えてくれて助かる。」

銀花のおかげで彼女の今までも言動や行動を理解出来た。

そりゃあ人生の殆どしていた事を急に変えろなんて言われても無理な話だ。

だからこそ俺の「自由にしていい」の言葉は、彼女にとって人生を揺るがす言葉になった。

「いや本当にすまん、あの言葉が俺の想像以上に意味があると思わなんだ。」

「大丈夫です。」

だけどお互いに少しだけ顔色が良くなっていた。

互いに話すことは無かった過去、けど一人で抱え込むには重すぎる過去だ。

それをお互いに半分こしたのだ、言葉では何も重さは変わっていないのかもしれないが、きっと二人には違うのだろう。


「お兄様、私手芸始めたんです。」

「そういえば言ってたな。」

文化祭が終わった後、俺の作品を見てかは知らないが、銀花ももの作りにハマっていた。でも彼女は金物や木材を加工する技術は無く、どうしたもんかと思っていた所、システィさんが手芸の心得があり、教えてもらう事にしたらしい。

「今は本当に小さいものしか作れないですが、いつか服とか作りたいです!」

「セーターとかマフラーとかそんな感じ奴か。」

「その通りです。」

システィは手さばきは凄いのは知っているので、娘である銀花も例に漏れないだろう。彼女の将来が楽しみだ。

「それで高校も手芸部がある所にしたいと思ったんです!」

「ネットで検索して良さそうな高校あったら、見学してこいよ。ネットと実態は結構違うからな。」

「もちろんです。来週お母さまと行ってくる予定です。お兄様も一緒に行きますか?」

「いや行かないよ。そこまでしたらシスコンと思われても仕方ないし、そこに入らない高校生がいるのも、高校側は嫌だろ。」

ここ最近銀花からの一緒にいたい圧が凄くなってきており、これは良いのか不安になりながらも、少しだけ嬉しくなった。

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