文化祭、そして本心と誓い

「絶対に行きます!」

「いや来なくていいから。絶対にお前と相性最悪な高校だから。」

文化祭が直近に迫り、高校の方から家に文化祭に関するお便りが届いた事で今に至る。

凪が通う高校の文化祭は悪い方で知名度が高い。

偏差値の高い進学校を謳っているせいで、そこにいる生徒は変なプライドがあり、遊びに来る外部の高校生や中学生を下に見る傾向にある。

そのせいで楽しくやる筈の文化祭なのに、やる度に誰かしら問題を起こしている。

「お兄様だけでも見に行きたいのです。」

「恥ずかしいからやめてくれ!!」

今年の文化祭は、美術準備室に篭る事になりそうだ。


「という事があったので、今日明日の二日間は篭ります。」

「凪君に妹がいるなんて初めて聞いたよ。」

「先生に言うのはこれが初めてなんで。」

文化祭当日、完成した銃の模型を展示し、準備は完了。

後は準備室に持ってきた菓子とゲームで二日間時間を潰す。

これで銀華と会わずに済むし、クラスメイトとも会わずに済む。

「先生はクラスの様子とか見に行かないといけないから、後よろしくね。」

「わかりました〜。」

先生も部屋から出て行き、真の意味で一人になる。

久々にゲーム三昧の日になりそうだ。電源を入れ、始めるのだった。


「ここがお兄様の高校。」

お母様に頼み、交通費と楽しみためのお小遣いも頂いた。

お兄様が通う高校は二日間共に一般開放されているので、初日にいく事にした。

「凄い作り込まれていますね。」

一年から三年、何処の出し物を見てもそう思えるほどだ。

変にプライドがあるからこそ手を抜かない為、ここまでレベルの高い出し物が並ぶのだろう。それは彼女が知る由もないが。

校庭に出れば火を使う系の出し物が並んでおり、至る所から美味しい匂いが広がっている。

「一つ下さい。あっこちらも下さい。次は...」

気づけば空のプラケースが手元に積まれており、時間を見てもまだお昼にも差し掛かっていない。

「流石に食べ過ぎですね。」

ふと周りを見るとやたら道ゆく人が自分の事を見ている。

その視線に嫌気がさし、パパッと片づけを終えてまた校舎に向かう。

出し物の中には展示をしている所もあり、装飾品だったり小道具だったりと、どちらかと言えば部活で作ったというよりかは趣味で作られた物が展示されている感じだった。

「何処歩いても見つかりませんね。」

かれこれ二時間ぐらい歩いているが、お兄様を見つける事が出来ない。

時間を見ればお昼終わりぐらいであり、もう直ぐ午後の時間に入る頃合いだ。

「そういえば音楽室とか行ってない。」

専門教室などでも出し物を出しているが、その全てが展示物であり、その教室らがあるのが別棟なのもあって人通りが少ない。いたとしても荷物を取りに来た本校の生徒ぐらいだ。

「美術室、この教室が端っこだ。この先は非常ドアだし、ここなのかな。お邪魔します。」

美術室の中は、私が通う中学と殆ど変わらなかった。

けれど展示室として運用する為、テーブルは端に寄せられており、一つのテーブルだけが部屋の中央に佇んでいた。

「銃の模型、これ動画で見た奴だ。」

借りてるパットの動画のおすすめによく出てくる某タクティカルシューティングゲームの主要武器だ。

【自由に触ってみてください】と書かれたプレートを見つけ、恐る恐る触れてみる。

ニスか何かが塗られているのか、肌触りも良く、重量感もしっかりしている。

ゲームのファンなら欲しくなる一品だろう。

「これ誰が作ったんだろう。」

どこを探しても製作者の名前は見当たらず、ただ銃だけがそこにある。

「おや!お客さんじゃないか。」

急に後ろから声をかけられ、ビクッとしてしまう。

「お邪魔しています。」

「いや~これしか展示出来る物がなくてごめんね。うちの部員は一人しかいないから。もう少し彼にやるきがあったらもう一作品ぐらい作れそうなんだけど、難しそうでね。」

見たところ先生のようだが、美術の先生という風には見えない。

「何かお探しかな。先生やってるからある程度ならお答え出来ると思うけど。」

「でしたら人を探してまして。石塚凪という方なんですが。」

「それは運が良い!その凪君はうちの部員だ。ちょっと連れてくるよ。」

「え!?あのその・・・」

私の静止など聞かずにトコトコと準備室の方に入って行ってしまった。

「お兄様がこれを作ったの?」

今の話を聞けばそうとしか思えない。

部員は一名、そしてその部員が石塚凪。

「こんなに凄い物作れるなんて知らなかった。」

銃の隅々まで凝りに凝っている、作りたいと思わないと作れない代物だ。

普段のお兄様の姿からでは想像が出来ない。

「本当に私たちに興味が無いのですね。」

自分の趣味も一切話してくれない。少しでも心を許してくれたと思った。

「自由に決めていいんだ」と言ってくれたあの人の言葉は、ただの上辺だけの言葉だったのだろうか。

「お前それ欲しいのか?」

「ひぁああああ!!」

さっきも同じような目にあった気がする。

デジャブを感じながら後ろを向けば、そこにお兄様が立っていた。

「まさか本当に来るとはな。」

「ごめんなさい。」

「あやまるな。それはお前の悪い癖だ、『来ちゃった!』みたいなテンションで良いんだ。俺は怒ってるんじゃなくて驚いてるんだ。」

無意識なのかお兄様は私の頭をポンポンと撫でている。

「凪く~ん、君に妹がいるなんて聞いた事が無いぞ~。」

「うげ、そりゃあ言ってないからな。なんなら彼女は妹というわけでも...」

「凪君。」

先生がお兄様の言葉を遮り、私から離し、そのまま廊下に出て行ってしまう。。

近づけば壁越しでも聞こえる距離だが、多分聞いちゃいけない話なのだろう。

それよりも。

「やっぱり妹として扱われてないのですね。家族では無いのですね。」

お兄様がお父様を嫌っているのは知っていた。でも、それでも私とお母さまには優しくしていた。あれは社交辞令だったのだろうか、分からない、分かりたくない。

「胸が痛い。」

刃物が刺さったかのように、胸が締め付けられる。

「お兄様....」

小さく、そう呟くのだった。


「凪君、今の言い方はいけない。」

「何がですか先生、俺は別に間違ったこと言ってない。」

「先生の言い方が悪かったのも認めよう。それでも君は『妹ではない』と否定してはいけない。」

普段の先生から出る筈の無いの重い空気と言葉、少なからず先生は真面目の話をしているらしい。

「一目見れば分かるさ、君たちが実の兄妹ではないことぐらい。君の家族間でなにかあったのだろうけど、あの子は父親じゃない。そしてあの子は君を必要としている。

恐らく中学生ぐらいなのだろう。それであの口調に佇まい、明らかにされてきた類だ。」

彼の一言一句に色がある、あの一瞬でそれだけの事が分かるのは正直尊敬してしまう。

「そのうえで彼女の君への信頼は、君が想像するよりずっと強い。だからこそ、君は彼女に『お兄様』と慕われている間は、兄でいなさい。」

傍から見れば説教なのだろう。けれど凪からすればそれだけの事をしたんだと自覚する。

石塚凪は身近に信頼出来る大人が少なからず存在していた。カフェのマスターなどがそうだ。でももし銀花の周りにそういう人がいなかったら。彼女の父親のせいでそういう人と出会えなかったとしたら、そう考えてしまう。

「すみません。」

「それを言うのは先生じゃない。あとは分かるのね。私はこの後用事があって教室を離れてしまう。あとは君次第だ。」

バイバイーとその場を後にする、なんだかんだあの人はだ。俺の信頼出来る人の一人だ。

「ちゃんと伝えないとな。」

扉を開ける、見れば自分の顔色を伺う彼女銀花がいた。


「すまん、さっきの言い方は良くなかった。」

「大丈夫です。私の方こそ図々しかったです。凪様のご迷惑と考えればこんな事する筈無かったのに、私が浮かれていました。」

「銀花。」

「二度とこんな事は致しません。今までも凪様が口に出さなかっただけで、どれだけの迷惑をかけたと。」

「銀花!」

「私は...」

「俺の顔を見ろ、銀花。」

目が合った。

今までとは違う、意思が宿った、男の人の目と合った。

「俺の言い方が悪かった。あんな言い方すれば拒絶と取られても仕方がない。」

それは俺がのと同じになる。

それはダメだ、銀花は違う。彼女は被害者で、それでも俺を慕ってくれた数少ない人だ。だからこそ今ここで終わらせちゃいけない。

「俺は間違った、それは事実だ。お前を妹だと思っていない、それも事実だ。」

間違った事を包み隠さず伝える。それでようやくスタートラインに立てる。

「それでも、俺はお前を大切だと思ってる。うわべっつらだと思われてもだ。」

「ならどうして私に『自由にきめていい』なんて言ったんですか。」

「それはお前が一人で決めることを今までしたことが無いと思ったからだ。」

話す、銀花と面と向かって話す。こうやってぶつかり合ったのはこれが初めてだ。

「凪様はずっと優しくしてくれました。それがだと思いました。でも違った。凪様はそんな事すら考えてなかった。」

もう目を合わせられない。息が出来ない、声を出すのが怖い、何を言われるのか想像してしまう。だと思われてしまう。

「私は、私は凪様にとってなんなのですか。」

それが私の本心だった。

「さっきと同じ事を言うが、お前は大切な人だ。でもそれだけじゃ今は足りない。」

決して後悔しない為、もうこの子にこんな顔をさせない為に、俺は選ぶ。

「銀花、こんな不器用で不躾や奴でも。」

手を握る。絶対に離さないと誓うように。

「もう一度お前の兄になってもいいか。」


「いいの?」

「いいよ。」

「貴方の妹にもう一度なって本当にいいの?」

「構わないさ。むしろ願ったり叶ったりだ。」

「一つだけお願いしてもいい。」

「ドンとこい。」

「ぎゅってして。」

力強く、でも優しく抱きしめる。銀花もそれに合わせて抱き返す。

気づけばポタポタと泣いている事に気づいた。

(暖かい、初めて人と触れ合えた気がする。)

お兄様は私が何か言うまでずっとしてくれた。時間で言えば10分だったと思う。

「気は済んだか。」

「うん、ありがとうございます。」

お兄様はそのまま立ち上がり、また手を握ってくれた。

「銀花、文化祭は巡り終わったのか?」

「いえ、まだ数か所見てなくて。」

「じゃあ行くか。俺もゲームで時間潰すより、お前と一緒にいたい。」

そのまま手を引っ張られる。私は為されるがまま、美術を飛び出した。

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