距離の遠い仮初の兄妹

銀花は家の近所にある中学に転入という形で通う事になった。

銀花は中学二年生であり、このまま行けば俺が家を出ると同時に高校生になると思われる。

彼女が転入して一ヶ月が経ったが、銀花の関する様々な噂が学校中で駆け巡っているらしい。

俺は少し遠くの高校に通っているので、銀華と通学時間が合うことはなく、しかも帰るのが夜遅くな為、基本的に顔を合わせる時間は少ない。また高校は進学校と名乗っている所なので、偏差値も高い。俺は無理やりな勉強方法で合格したせいで見合ってない学力な為、まるで授業に追いつけず、万年赤点と追試の生活を送っている。


「凪、教室に居たく無いのは理解出来るけど、美術室に入り浸るのも良くないと思う。」

「美術準備室が部室なんだから、部員である俺がいても不思議じゃないと思いますが。」

「それはそうなのだが。」

俺は美術部に所属している。まぁ部員は俺一人だけなので、実質無法地帯となっている。俺は絵は描けないので、資格を取る際に色々噛んだ金物弄りをして時間を潰している。時折木材を使ってゲームに出てくる銃などを再現し、フリマで売ってお金にしている。現在進行形で、某タクティカルシューティングゲームのアサルトライフル(確定ヘッドショット150)を作っているところだ。

「君の担任で顧問担当だから、君に関してある程度は知っているし、理解してるつもりだ。本当に就職するつもりなのかい。」

「しますよ。あの家にいるつもりもないし、これ以上あの父親の施しを受けたくない。」

先生が俺が心配してるのは理解している。それでも気持ちは一向に変わることはなかった。

「勉強も出来ない人間も高校側からしたら出したくないだろうし、俺は黒歴史として葬り去られるよ。」

「ならせめて赤点を回避してくれ〜。」

「それは努力します。」

後数日もすれば文化祭が始まる。俺は展示する為の作品である銃を完成させたら、適当な台座を作って準備は終わりだ。

クラスの出し物はクラス側が勝手にやっているので、俺は一切関わっていない。

文化祭も俺からすればただただ息苦しい時間でしかない。

「じゃあ帰ります。塗料は多分明日にならないと乾かないし。」

「分かった。明日もいつものように放課後は鍵開けとね。」

「ありがとうございます。」

文化祭準備の為、授業そのものが早めに終わる。なのでやる事が少ない俺は必然的に早く帰る事になる。

「まぁ家に帰っても、部屋に篭るだけだからな。」

それが俺の日常だ。家に帰っても誰とも顔を合わせずに部屋に入る。それの繰り返した。父親が再婚し、あの日以降ろくに会話もしていない義妹が出来ただけのこと。

そう思っていた。

「お帰りなさい凪お兄様。」

「・・・ああただいま銀花。」

久しぶりに「ただいま」と言った気がする。

初めて銀花に玄関で出迎えられた。時間を見れば15時過ぎ、銀花はギリギリ帰っているかいないかの時間だ。

「お荷物運びますよ。」

「やらなくていい。自分よりも歳の下の女の子やらせるほど、俺も落ちぶれたくない。」

「では何をすれば。」

「テレビとか見たり、ゲームしたり、本読んだりとか色々あるだろ。」

俺がそう言ったら、銀華はポカンと口を開けた。

「していいのですか。」

「許可なんていらないだろ。」

「いるものだと思ってました。前がそうだったので。」

「お前何言って....」

そこで気づいた。あの日初めて会った時の目の事を。

無機質なあの雰囲気、母親の言葉一つで態度を変えたのを思い出す。

(こいつ父親に束縛束縛されてたのか。)

「お前携帯とか持ってるか。」

「持ってます。」

「ちょっと中見せろ。」

「どうぞ。」

すんなりを携帯を手渡される。パスワードすらかかっていない。

中身を見れば、初期入っているアプリと連絡帳しかなく、今時の子供なら入っていてもおかしくない物が一切入っていない。

(これは相当だぞ。)

凪が思う以上に銀華の今までの生活の束縛性に恐怖を覚える。

恐らく前の父親は物理的な束縛ではなく、内面での束縛で言うことを聞かせていたのだろう。

「う〜ん、分かった。銀花俺の部屋に来い。」

「ですが。」

「文句を言わずに来い!」

少しぐらいは楽しい事を教えるぐらいはしてもいいだろう。

「色々あります。」

「テレビつければ直ぐにゲームが出来る。そこの棚にゲームカセット入ってるから自由に遊んでいい。ベッドの上にあるパットに電子版の漫画入ってるから読んでいい、パスワードはかかってないから充電コードと一緒に自室で読んでも構わない。ついでにアニメも見れるアプリ入れてるから、好きなもの見つけろ。」

俺の部屋はゲーマーのような部屋なので、時間を潰すものはいくらでもある。銀華は楽しい事を覚えるべきだ。

「後携帯に幾らかアプリ入れたから、学校の友達と遊ぶ時、連絡先の交換ぐらいしておけ。」

「いいのですか。」

「そのぐらいは誰の許可もいらない。お前が自由に決めていいんだ。」

そして机の引き出しからある物を取り出す。

「俺の部屋の鍵だ。俺がいない間は好き勝手に出入りして構わない。ただし、お前以外の誰かを部屋に入れたら没収だ。いいな。」

「はい。」

机の上にあるパソコンに関しては、まず一般人なら突破出来ないパスワードにしてるので、銀華に中身を見られる事もない。

「俺は少し用事があるから、好きにしててくれ。」

彼女を一旦一人にしよう。それでどれぐらい自由に楽しみかどうかを知りたい。そう思い外で適当に時間を潰す事にした。


「好きにしろ...していいのかな。」

お兄さんが部屋から出て行き、私一人だけが取り残された。

「ゲーム、ゲームやってみよう。」

テレビをつけると、直ぐにゲーム機本体のホーム画面に移行する。どうやらこのゲーム機自体にも幾らかゲームが入っているようだ。

「このゲームの名前、クラスの方々が話してた。」

某天下のゲームメイカーのレーシングゲームを起動し、チュートリアルから始める。

「う〜この〜あああ!よ〜しお〜〜。」

彼女も気づかないうちに体が画面に合わせて、右に左に揺れる。

側から見ればそれは『楽しんでる』ほかなく、瞬く間に時間は過ぎていった。


「日が落ちたから帰ってきてみれば、良い顔で寝てるなおい。」

今までした事ない事からの疲れなのだろう。

銀華はゲームを起動したまま床で寝転んでいた。

時間を見れば19時手前、既にシスティさんは帰ってきており、もうすぐ晩御飯の時間だ。

「銀花起きろ。銀花起きろ!。」

軽く体を揺らし、無理やり起こす。

「う〜ん....お兄様?」

「もうすぐ晩御飯だ。はよ下の降りろ。」

「お兄様は?」

「俺は一人で飯を食うから大丈夫。さぁ行った行った。」

銀華を立たし、そのまま部屋から追い出す。

この時間には父親が帰ってきているので、あんな奴と同じ食卓に座るつもりは毛頭無く、いつも一人部屋で済ましている。

「俺以外が食卓に座るんだから良いだろ。」

基本的にはクーラーボックスに一日のご飯は入れてある。何かあっても栄養食の積んでいるので大丈夫だ。

基本的に家では人と接触する時間を極力減らしているので、何かあったら自己責任だ。そこあたりは父親から二人に説明が入っている筈だし、聞かれたら答えるぐらいにはするつもりでいる。

「お兄様、お食事持ってきました。」

冷えたご飯を口に入れようとした時だった。

「今日はハンバークです。お母様の得意料理です!味はお墨付きです。」

「一人で食べると伝えた筈だが。」

「私達がこちらに来てから、お兄様は一度もお母様の料理を食べてません。それは勿体無いです!」

無理やり机に料理を置かれる。

まだ冷めてはおらず、美味しそうな匂いが鼻を燻る。

「食べ終わったら教えてください。お皿を取りに来るので。」

「自分で片すよ。銀花に迷惑はかけない。」

「大丈夫です。いつもしていたことですし。」

その言葉にイラつきも覚えるも、顔に出すことはしない。

「いつもしていた事が常識じゃないかもしれないだろ。この家では各々が片すんだよ。お前は風呂入って寝ろ。」

シッシと銀花を追い払い、ハンバーグを口に入れる。

「美味い。」

久しぶりに温かい食事を食べた気がする。

気づけば完食しており、空になった皿を持って一階に降りる。

流石に食べたのだがらお礼の一つぐらいした方が良いだろう。

リビングにつながる扉を少しだけ開け、中を確認する。

父親は既に寝室に移動しているようで、部屋の中にはシスティさんだけが見えた。

「システィさんハンバーグ美味しかったです。」

扉を開け、声をかける。

「凪様、それは良かったです。お口に合って安心しました。」

「後は自分が洗いますので、休んでください。」

「でも凪様の手を煩わせるのは・・・」

「最後に食べ終えたのは俺です。洗うぐらいはやらして下さい。」

ゴリ押しの形でシスティさんから仕事を奪い、そのまま寝室まで送る。

一人リビングで皿を洗う。

「一人暮らしを始めたらこれが普通になる。今のうちに慣れないとな。」

「一人暮らしを始めるのですか?」

独り言に返されるとは思わず、ギュッと体が固まる。

いつの間にか隣に銀花が立っており、首を傾げながらこちらを見ていた。

「まぁ〜ね〜色々あるんだよ。」

「部屋の資格関連がそうなんですか?」

「ウグッ。」

痛いところを突かれ、顔に出てしまう。

「何処に行くのですか?」

「それは教えるつもりは無い。俺が高校を卒業したら出ていくつもりとは教えといてやる。」

「そうですか。」

「銀花達が原因じゃない。二人が来る前から決めてた事だし、父親にも既に伝えている。まぁ伝えてなかった俺も悪いがな。」

銀華が表情が暗くなった事を気づき、それは違うをキッパリと答える。

「それはお父様との関係が理由ですか?」

「気づいてるならいいか。そうだ、そしてこれは絶対に解決しない問題でもある。」

最後の皿を洗い終え、拭き終わったタオルを纏めて風呂場に向かう。

「そんな顔するな銀華。ただの他人が仮の家族になってるだけだ。俺がいなくなった後の方がこの家にいる時間が長いんだ、今悩んでも仕方が無い。」

そういい終えリビングを後にする。

「では何故、何故お兄様はそんな、をしてるのですか。」

銀華が足が動かなかった。


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