新しく出来た義妹ぐらいは、守れる兄でありたい

焼鳥

新しく出来た義妹

「凪この日だけは頼む、時間を貸して欲しい。」

夏の酷暑がおさまり、月だけで見れば秋に差し掛かる頃、からそう言われた。

「この日によく通っていたカフェテリアに来てくれ。大事な話があるんだ。凪だけで収まる話ではなくてね、頼む。」

「事が終わったら直ぐ帰る。」

「ありがとう。」

石塚凪いしづかなぎ、それが俺の名前だ。

現在は高校二年生、大学進学するつもりは無い。

両親は離婚しており、父親側で引き取られ生活している。父親との関係は劣悪も劣悪。それは父親が全ての原因なので、俺は関係無い。

「あのクソ野郎が頭下げてまでお願いするとか、どうせロクでもない事だろうな。」

話を聞き終え自室に戻れば、止まっていた勉強を再開する。

棚には様々な資格の参考書やそれらに受かる為の学問書が並んでいる。そしてそのうち何個は付箋で「完了」と貼られており、幾らかは資格を取得している事が窺える。

「どうせ後2年でこの家とはおさらばだ。」

彼も気づかぬうちに力が篭っていたのか、シャー芯を折ってしまう。

「今日は無理そうだな、イライラしてる。ゲームやって風呂入って寝るか。」

約束の日は今週末、もう少し前もって伝える事も出来ない父に悪態を吐きながら、その日を終えた。


集合場所は小さい頃よく行っていたカフェ、母親が居なくなってから来ることも無くなった所だ。

「あいつもなんで此処を選んだ。吐き気がする。」

店に入れば、霞みかかった記憶にも残っている人が立っていた。

「おじさん久しぶりです。まだ現役だったんですね。」

「久しぶりだね凪君。お母さんの事は聞いたよ、私から何か言えることは無いが、変わらない味だけは提供するよ。」

このカフェは個人経営であり、そのマスターであるこのおじさんは俺が心を許す数少ない大人の一人だ。

「君のお父さんは奥のテーブルにいるよ。何やらお客さんも来てるみたいだね。」

「あいつに客?詐欺られたか。」

「実の両親に言う言葉では無いと思うが、君の心情を考えると無理もないか。早く行きなさい、直ぐ終わらせて帰りたいのだろう?」

「あぁその通り。そうだ、コーヒーお願い。もちろんマスターのおすすめでね!」

「注文承りました。」

マスターに一礼し、テーブルに向かう。

日差しが入り、窓の向こうも良く見える良い席に彼らは居た。

「来たぞ。」

「凪、こちらに座ってくれ。」

テーブルの向かい側には大人の女性と、自

「初めまて凪様。」

女性は自分の事を既に知っているようで、名前で呼ばれる。

外見を見れば、恐らく外国人。透き通る程の青眼に綺麗な銀髪だ、美人と言って差し支えないほどだ。そして日本語を流暢に使えている事から長い間日本にいるようだ。

「初めてまして、石塚凪です。」

「名前はシスティ・エーフィールトと申します。」

「システィさんですね、本日はどのようなご用件で。」

「それは私が話すよ。」

父親が声を出すと、システィさんも気づいたのか。隣に座っている女の子にも声を掛けた。

「凪、私とシスティさんはね、結婚することになったんだ。」

声が出なかった。何を言っているんだと。

「はい凪様、少し前からお付き合いさせていただいておりまして、互いの思いも一致した次第です。」

システィさんも父親の言葉に合わせ、説明を始める。

正直1%も頭に入ってこなかった・結婚という言葉だけで、此処に居たくないという気持ちが溢れていたからだ。

それでも相手に失礼なのは理解している。

「そうだったのですね、正直驚きました。では彼女は。」

「彼女は銀花・エーフィールト。凪様の妹になる人です。」

「初めまして。」

母親譲りであろう銀髪と青眼、けれどシスティさんとは明確に違う部分があった。

(目に光が無い。)

「銀華、貴方のお兄さんになる人です。素っ気ない態度を取っては。」

「大丈夫です。急に家族が出来ると言われて、簡単に心を開けなんで無茶な話です。」

俺の言葉にシスティさんもハッと気づき、銀華に謝る。

あちらの家族関係は良好なようだ。

「銀華、少しあちらで話そう。そろそろ頼んでたコーヒーも来そうだし。」

銀華をカウンターの方に案内しようとしたが、微動だにしない。

まぁそれはそうだ。側から見れば不審者がやることだ。

「ここのショートケーキは美味いぞ。」

「本当!?」

「本当。」

年齢相応の反応を貰い、これならある程度は対応出来そうだ。

「二人には積もる話もあるだろ。俺たち側でも話たい事あるし、少しだけカウンターにいます。」

「わかった。」

「わかりました。」

カウンターに着けば、マスターがコーヒーを差し出してくれた。

銀華も横に座ったので、俺が苺のショートケーキを頼む。

「凪様は優しいのですね。」

「その年齢でその口調は浮くぞお前。」

「急に口が悪くなりました。後これはお母様譲りです。」

「これが俺の素だ。人前ぐらいは口調を正すさ。」

「では何故私の前ではそうなのですか?」

「お前が苦しそうだからだよ。」

銀華が俺の顔を初めて見た時、恐怖に似た表情を一瞬だけした。

それを見逃していれば呼ぶことはしなかったが、運悪く気づいてしまったのだ。俺はそれすら見て見ぬ振りが出来るほど鬼では無く、こうして話している。

「過去に何があったかは聞かないし、お前は俺を兄として接しなくていい。俺もお前に関わる事は極力しないから、お前の好き勝手にしてくれ。」

「どうしてそんな事をおっしゃるのですか。」

「大方、今のお前のその状態は離婚した父親側の問題でなったんだろ。その状態で見ず知らずの男と関わろうとして、余計に心身にダメージを与える方が悪いだろ。」

「でもお母様は仲良くしろと。」

「どうせ俺の事は父親から話されるだろうから安心しろ。直ぐに撤回される。」

コーヒーを啜りながら会話を交わす。

銀華は想像以上に従順な性格なようで、システィさんから言われた事を律儀に守っているようだ。俺とは大違いだ。

「こちら苺のショートケーキでございます。」

「ほら来たぞ。」

銀花はケーキを前にすると、年相応の笑顔を向ける。

「食べていいのですか。」

「食え、俺の奢りだ。」

パクッと銀華が一口放り込む。

「美味しいです!」

「そりゃあそうだ。なんてたってマスターの手作りなんだから。」

「凪君のお墨付きとは嬉しいですな。」

リスみたいに頬張ってる銀華を横目に、奥のテーブルに目を向ける。

二人は仲慎ましく談話してるのを見ると、今の所は大丈夫そうだ。まぁこの空気が続けば悪い事は起きないだろう。

「銀花、お金置いとく。俺はもう帰るから、俺の事聞かれたら、『帰った』とだけ伝えといてくれ。」

「一緒に帰らないのですか?」

「一緒に帰るとは?」

「今日から一緒に住むと前もってお母様から伝えられたのですが。」

「は・・・・・はぁ!!!???」

俺の今までの生活は終わりを告げたのだった。


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