8 二人の想いを前に、俺は……。


 その日の夜。


「ええええええええ……」


 俺は頭を抱えていた。


 マチルダに――ほぼ告白同然のことを言われて。


 キサラからも、同じく意味深な内容を伝えられて。


 まあ、冷静に考えればモテ期ってやつだろう。


「……って、冷静に考えられるかぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は頭を抱えたまま悶えた。


 身もだえした。


 いやいやいやいや。


 二人とも、俺のことをそんな風に考えてたのか!?


 と、そのときだった。


 こんこんっ。


「あの……レイヴン様、少しよろしいでしょうか?」

「うえええええええっ!?」


 ドアがノックされ、俺は思わず声を上げてしまった。


 キサラだ。


 ど、どうしよう……。


 今、あんまり顔を合わせたくない――。


 とはいえ、入って来るなとも言いづらい。


 言えば、キサラは俺に避けられていると誤解するかもしれない。


「……どうぞ」

「……し、失礼いたします」


 俺は一瞬の躊躇の後で入室を促し、キサラがおそるおそるという感じで入ってきた。


「あ……」


 顔が赤い。


 それに目元が特に。


 泣いてたのかな、キサラ……。


「先ほどは申し訳ありませんでした」


 キサラが深々と頭を下げる。


 それから床に両手両足を付いた。


「キサラ、いや、あの――」

「本当に――申し訳ありませんでした!」


 俺の前に土下座している。


「そんなことするなよ!」


 俺は思わず叫んだ。


 しゃがみこんで彼女を抱き起こす。


「マチルダ様との仲を邪魔して……しかも分不相応な想いまで打ち明けて……あの後、自分でも何をやっているんだろうと後悔しました……」


 キサラは嗚咽をもらしている。


「自分が情けないです……」

「そんなことないって! それに、俺だってキサラに側にいてほしいって思ってるよ」


 俺は優しく微笑んだ。


 うん、そうだ。


 それが俺の素直な思いだ。


 もちろん、マチルダだって大切な存在だけど――。


「……ありがとうございます」


 キサラが儚げな笑みを浮かべた。


 目頭を手の甲でぬぐいながら、


「そう言っていただけるだけで、私は幸せです……」

「キサラ……」

「どうか、マチルダ様のことをお考え下さい」


 キサラが言った。


「私……私は、お二人を応援しますから……」

「……分かった」


 うなずきながらも、俺の気持ちの中には依然として二人の少女が同居している。


 キサラと、マチルダと。


「では、私はこれで……」


 キサラは一礼して部屋を出ていった。


 俺はその後ろ姿を見つめながら、気持ちの整理がつかないでいた。


 自分でも、こんなに心が乱れるなんて信じられない。


 キサラもマチルダも、俺の中でそれだけ大きな存在だっていうことに、あらためて気づかされる。


 いつの間にか、俺は二人のことを……こんなにも大切に思っていたんだ。


 けれど、もしどちらか一人を選べと言われたら?


 俺は……。


「どうすれば――いいんだろう」


 順番なんて付けられっこない。


 俺は、二人のことを――。




****

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