9 魔界の実力者
「ば、馬鹿な、強すぎる――」
戦闘開始からわずか2秒。
俺が初撃に放った魔力弾で大ダメージを与え、二撃目に風系統の拘束魔法で完全に体の自由を奪った。
「動けない……」
今、俺の目の前で魔族が這いつくばっている。
風をロープのようにして両手両足を縛っているのだ。
この風は俺の魔力を込めてあり、単純な物理では吹き飛ばせない。
拘束を解くには、俺以上の魔力で吹き飛ばすしかない。
が、俺の魔力は高位魔族すらはるかにしのぐ。
こいつが拘束を逃れるのは不可能だった。
「最初の質問だ。なぜ俺に声をかけた?」
「……話すと思うか」
どんっ!
俺をにらんだ魔族のすぐ側に魔力弾を炸裂させた。
「話さないなら殺す。魔族を優しく扱う理由はないからな」
冷然と言い放つ。
まさしく『悪役』の口調で。
「理由についてはお前を殺した後、俺が自力で探し出す。が……お前が話してくれれば、多少の手間が省けるからな」
「ううう……」
「もちろん話してくれれば、なんらかの見返りを考えてやろう。さあ、選べ」
俺は魔族に告げた。
「殺されるか、話すか。俺はどっちでもいい」
「……命令だ。お前を殺せと言われた」
魔族が言った。
「命令? 誰の?」
「そ、それは……」
「話さないなら殺す」
「……ディフォール様、だ」
魔族は迷った素振りを見せつつも、結局打ち明けた。
「ディフォール……?」
聞いたことがない名前だった。
少なくとも『エルシド』本編に、そんな名前の魔族は登場しない。
「そいつは何者だ」
「魔界の三大貴族の一人だ。魔界で最大の勢力を持つ家門の一つ――その当主さ」
「三大貴族……」
確かそんな設定があった気がする。
とはいえ、ゲーム本編で深く掘り下げられた設定ではなかったはずだ。
「要は魔界の有力者ってことだよな?」
「その認識で間違いない。俺に命令を下したのは、そのディフォール様。理由は――現魔王レスティアの力を削ぐことだ」
「……!」
こいつは今、『現魔王』と言った。
以前にレスティアが『魔王アーヴィスはあたしが殺した』と言っていたが、その裏付けが取れたと見ていいだろう。
ゲーム内では魔王として登場したアーヴィスがレスティアに殺され、その彼女が現在の魔王。
で、ディフォールってのは、おそらくレスティアの対抗勢力だろう。
ゲームとは異なる魔界の勢力図。
きっとそれは人間界にも大きな影響をもたらすはず。
現に俺は暗殺されそうになったわけだからな――。
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