2 いつしか友へ


「休み中は一度会ったけど……あれ以来、全然会う機会がなかったね」

「まあ、夏休みなんてそんなもんだろ?」

「そうだけど……ちょっとくらい連絡くれてもいいじゃないか」


 マルスが軽く頬を膨らませた。


 ん、もしかして拗ねてないか、こいつ。


「いや、だったらお前から連絡してくればいいだろ?」

「無理だよ。僕は庶民だし、君は貴族だろ」

「気にするなよ、そんなの」

「気にするとかしないとかじゃなく、僕が連絡したところで君に取り次いでもらえるかどうか、かなり怪しいよ」

「えっ、そうなのか?」

「そうです」


 キサラが横から言った。


「貴族って面倒くさいな……」

「でも、マルス様でしたら『レイヴン様のご学友』ということで、すんなり連絡が通ったかも……」

「いや、君たちに手数をかけるのも申し訳ないし……とか思って、結局連絡できずじまいだったんだ」

「そっか、気を遣わせて悪かったな」


 俺はマルスに謝った。


「ううん、またこうして君と会えるし、もういいんだ」

「はは、またよろしくな」

「こちらこそ。あ、でも――」


 マルスの表情が引き締まる。


「トーナメントでは……負けないよ」


 おとなしい性格の彼らしからぬ闘志に満ちた宣言。


 こいつも少しずつ――変わっていってるんだよな。


 最初は気弱な印象を受けたけど、学園で過ごし、いくつもの戦いを乗り越えて、どんどんたくましく成長していった。


 そして今、学園最強であろう俺と対峙しても、もはや気後れしない。


 こいつはまさしく『主人公』だ。


「俺もだ。いい試合をしよう」


 俺はマルスに手を差し出した。


 ――変わったのはこいつだけじゃない。


 俺だって、マルスに対する感情は随分と変わったように思う。


 ゲームでは、レイヴンはこいつに殺される。


 だから、俺もマルスのことを警戒していたし、こいつが主人公として覚醒しないように立ち回るべきだと考えていたこともあった。


 けれど、この世界の敵は魔王だ。


 その対策も考えたとき、結局はこいつの力が必要になる――。


 そして、実際にマルスと接しているうちに俺の警戒心は少しずつ溶けていった。


 俺は――いつの間にか本心からこいつを『友だち』だと思うようになっていたんだ。




 俺はマルスやマチルダ、キサラと一緒に教室に入った。

 と、


「あ、レイヴンくんだ。おはよ。ひさしぶり~」


 その後ろから一人の女子生徒が駆けこんできた。


 緑色の髪を長く伸ばした神秘的な美少女だ。


 レスティア・ダークロア。


 魔王の化身を名乗る少女だった。


 いや、実際に彼女の魔力の巨大さなどから見て、レスティアが魔王だというのは事実だと俺は確信している。





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