14 もうすぐ夏休み
俺とマルスの決勝戦――。
その前に、夏休みがある。
「少しリフレッシュするのもいいかもな」
俺は気持ちを浮き立たせていた。
マルスと別れると、今度はキサラがやって来た。
「さすがレイヴン様です。一年生で学内トーナメント決勝戦まで進出するなんて」
キサラは目をウルウルさせていた。
「ほんの一年と少し前までは、まったく努力せず、他人を見下すばかりで性格最悪で行く末がすごく心配でしたが……」
「けっこう容赦ないな、キサラ」
「はっ、つい本音が!?」
「別に本音で話していいよ」
ハッとしたように口元を押さえるキサラに俺は苦笑した。
「確かに俺は自分の才能にうぬぼれて努力してこなかったんだろう。けど、それじゃダメだって知ったから――」
生き延びるために。
運命を変えるために。
俺は努力を始めた。
もともと超天才だったレイヴンの能力は、俺が始めた努力によってみるみる開花した。
今の俺なら――本来のシナリオなら『勝てない相手』であるマルスに勝てるんだろうか?
「私はあなたの努力を一番間近で見てきました。ただ強くなるために、ひたむきに頑張るあなたを」
キサラが俺を見つめ、微笑む。
「恵まれた才能に溺れることなく、さらなる高みを目指すレイヴン様を――そんなあなたを尊敬しているんです。そんなあなたを追いかけて、私も魔法学園に入ることにしたんです」
「キサラ……?」
「私にはレイヴン様のようなずば抜けた才能はありません。それでも強くなるために努力することはできます。あなたのように」
キサラの声に熱がこもった。
「私は……これまで日々を生きるだけで精いっぱいでした。獣人奴隷として……前の家ではあまりいい目に遭わなくて……それをドラクセル家に拾っていただいて。その恩に報いるために必死で仕事して……」
……キサラって、そんな過去があったのか。
ゲームじゃ語られなかった背景だ。
裏設定として存在しているのか、それともこの世界独自のものなのかは分からないけれど――。
「でも、毎日の仕事をこなすだけの日々じゃなく……私もレイヴン様のように、ひたむきに追いかけるものが欲しかったのかもしれません」
「キサラだってがんばってるよ」
俺はにっこり笑った。
「ひたむきに追いかけるものが欲しい、って言うなら――もう君は手に入れてるんじゃないのか、そいつを」
「そうだと……いいですね。レイヴン様ほど努力できてませんけど」
俺の言葉にキサラは照れたように頬を染めた。
照れたように狐耳がくにゃっと折れ曲がる。
やっぱり可愛い。
「……というか、モフモフしたいぞ」
「えっ」
「えっ」
あ、しまった、つい口に出していた――!
「も、もう、どうしたんですか、急に……」
「い、いや、あんまり可愛いから」
「えっ? ええっ?」
俺の言葉にキサラは真っ赤になった。
だって可愛いよな、キサラのモフ耳。
「可愛い……私が可愛い……えへへへ、そ、そこまで言ってくださるなら……い、いいですよ? 恥ずかしいので、ちょっとだけですけど……」
キサラが俺に頭を向ける。
ぴょこぴょこと狐耳が可愛らしく揺れている。
う、うおおおおおっ!
俺は急に萌え心マックスになり、彼女の狐耳をモフモフさせてもらったのだった。
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