9 魔王の予兆
昼休み――。
「すごいです、レイヴン様……」
キサラが俺に話しかけてきた。
「推定魔力値『35000』って……化け物じゃない、まったく」
マチルダが苦笑する。
現在、俺は右にマチルダ、左にキサラ……と美少女二人に挟まれた状態で昼食をとっている。
まさしく両手に花だ。
「ところで――魔王が復活する、っていう噂を知ってるか?」
俺は声を潜めて二人にたずねた。
このゲームのストーリーは二部構成になっている。
第一部は魔法学園編――つまり俺が今経験している学園生活がメインストーリーだ。
主人公のマルスはここで様々なキャラクターに出会いながら、己の魔法能力を磨いていく。
そして第二部……これは魔法学園を卒業した後の冒険ストーリーで、復活した魔王軍との戦いがメインとなっている。
ちなみにその魔王軍の中枢にいる人間がレイヴン・ドラクセル――つまり俺だ。
ゲーム内のレイヴンは魔王軍に与して人間世界全体に戦いを挑むのである。
その戦いの中、主人公のマルスと戦い、敗れて死亡するんだけど――。
もちろん、俺はその未来を回避するつもりでいる。
で、当面の目標は『主人公のマルスと敵対しないこと』なわけだ。
それ以外にも、俺が破滅しない方策として、この一年で色々と考えていた。
たとえば、俺が魔王を倒してしまえば、俺自身の『破滅の運命』を逃れられるのか?
つまりゲーム内では魔王軍に与する俺が、この世界では魔王軍と敵対し、主人公と一緒に戦うわけだ。
これに関しては――上手く行くかもしれないけど、リスクも相応にある。
なぜなら、ゲーム内のレイヴンは魔王に精神を操られているのである。
洗脳状態だ。
だから、俺が魔王に立ち向かった場合、洗脳を受ける恐れがある。
回避できるかどうかは分からない。
相手は仮にも魔王だからな。
で、回避できなければ、俺は自分の意志に反して人類に敵対し、世界侵略戦争に加担する『悪役』となる――。
だから、現時点で俺が考えている最善手は、
・主人公とは敵対しない。
・魔王軍が復活した場合、主人公たちに戦ってもらい、俺は後方支援に徹する。
つまり――魔王との直接接触は絶対に避け、なおかつ主人公との敵対関係にもならないルートを行く。
魔王との戦いは、できれば俺も協力したいけど、それは『洗脳を絶対に避けられる』方法を確立できたら、という但し書きがつく。
現状では後方支援に徹するつもりだった。
「ここ、いいかしら?」
突然、前方から声をかけられた。
俺たちの前に一人の女子生徒が立っている。
緑色の髪を長く伸ばした少女。
口元にたたえた笑みは勝ち気そうで、どこか小悪魔的な印象を受ける。
「君は――」
「レスティア・ダークロアよ。初めまして」
彼女が微笑む。
レスティア……か。
聞き覚えのない名前に、見覚えのない顔。
少なくともゲーム内で
要はモブなんだろう。
ただ、モブとは思えないほどの、印象的な美貌だ。
それこそメインキャラを張れるくらいの――。
「あ、ああ、どうぞ」
左右にはキサラとマチルダが座っているけど、対面の席は空いている。
「どうも」
会釈してレスティアが俺の向かいの席に腰かけた。
定食の載ったトレイを机に置き、俺を見つめる。
……? 食べないんだろうか?
と不思議に思っていると、
「魔王に興味あるんだ?」
レスティアが、にいっ、と口角を吊り上げて笑った。
「えっ?」
「聞こえたのよ。魔王の話をしていたでしょ」
「い、いや、それは単なる世間話だから……」
魔王に興味がある、なんて外聞のいい話じゃない。
「ふうん。あたしは興味あるけどな」
レスティアが微笑む。
「それと――あなたにも。すごーく興味ある」
「えっ」
「だって、あたしは魔王の化身だから」
「なっ……」
俺は絶句した。
今、この子はなんて言った……!?
「魔王の――化身……!?」
がたっ。
キサラとマチルダが同時に立ち上がる。
俺を守るように一歩前に出た。
俺はそれを制して、彼女たちのさらに前へ――、
「なーんて、ね。冗談よ、冗談」
レスティアが笑った。
「まさか本気にするなんて思わなかったわ。ごめんごめん」
パチンとウインクをしながら謝るレスティア。
なんだ冗談か。
……と、俺は即座に納得したわけじゃなかった。
こいつ――もしかして。
****
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〇『魔族のモブ兵士に転生した俺が、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために修行した結果、限界の壁を超えて規格外の最強魔族になっていた。』
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