第2章 加速する才能編
1 一か月後
「レイヴン様、何ですか、今のは!?」
キサラがすっ飛んできた。
「……って、えええええええええええええええええええええっ!? 魔法練習場がなくなってるーっ!」
「ご、ごめん、吹っ飛んじゃった……」
俺は彼女に謝った。
実際、これどうしたらいいかな……。
さすがに怒られるだろうか。
「な、何か事故でもあったのですか!? レイヴン様、お怪我はありませんか!?」
「俺は無事だ」
そういえば、これだけの爆発で良く助かったな、俺。
「よかったです……」
キサラがホッとした顔になる。
「レイヴン様は魔力が高いですし、それに応じて無意識にまとう防御結界も強力なはずですから。これくらいでは傷を負わないのだと思います」
と、俺の内心の疑問に答えるように説明するキサラ。
「なるほど……」
と、
「これはなんの騒ぎですか!?」
さらに館から何人もの執事やメイドたちが走ってきた。
「騒がせてごめん。実は魔法の練習をしていたら、魔法の威力が強かったみたいで、練習場を丸ごと吹き飛ばしてしまったんだ」
「えええええええええええええええええええええええええっ!?」
全員が驚きの声を上げる。
キサラだけじゃなくて、他の使用人もみんなリアクションでかいんだな……。
「魔法の練習場を破壊した?」
「すみません、母上……」
練習場を壊してしまったことを、俺は母に報告に行った。
ちなみに父は国の偉いさんで、ほとんどこの家には帰ってこない。
母はいわゆる後妻であり、俺との血のつながりはなかった。
本当の母はレイヴンを産むのと同時に亡くなっており、それも彼が悪役に落ちていく遠因になっている。
それはさておき、今は練習場の問題を解決しなければならない。
「つまり、あなたが魔法の練習をした、ということですね?」
「ええ、まあ……」
「素晴らしい!」
母は目をキラキラさせて叫んだ。
「怠け者のレイヴンさんがやっと目覚めてくれた! あなたには天才的な魔法の才能があるのに全然練習しないのは、本当にもったいないと思っていたのですよ! それが……ああ、早くあの人にも報告したい……!」
『あの人』というのは父のことだ。
しかし、こんなに喜んでくれるとは。
てっきり母は俺に興味がないものと思っていたが……。
「ただ……私が加減を誤り、練習場を壊してしまったのです。申し訳ありません、母上」
「問題ありませんわ! 練習場などいくらでも作り直せばよいのです! そのためのお金なら、あの方は喜んで出すでしょう」
母が満面の笑顔で言った。
「新しい練習場ができるまで……どこか適当な場所で練習できるといいのですが」
「あ、それなら裏手の山や林の中でできると思います」
俺は母に言った。
「裏山の一画を私の練習場として使用させていただいてもよろしいですか、母上」
「もちろんです! 存分に鍛えてくださいませ!」
母は目をキラキラさせている。
「では、そういうことで……」
俺は魔法の練習を続けたかったので退室することにした。
「レイヴンさん」
俺の背に母が声をかける。
「なんでしょう?」
振り返ると、母はニコニコ顔だ。
「がんばりなさい。期待していますよ。私も。そしてきっと、あの人も」
「精進いたします」
俺は一礼し、部屋を出た。
それから一か月が経った。
「いくぞ――【上級ファイア】!」
俺が放った魔法が練習場の内部を荒れ狂った。
特注の――通常の20倍の強度の防御結界で守られていなければ、また一か月前みたいに練習場ごと吹っ飛ばしていただろう。
この特注の防御結界は、吹き飛んだ練習場を再建した際、俺が頼んで設定してもらったものだ。
まあ、普通の防御結界を張っても、俺が一発で吹き飛ばしちゃいそうだったからな。
さすがに20倍の強度の防御結界はそう簡単に壊れることはなく、以降は俺も練習場を吹っ飛ばすかも、という心配なしに魔法の連中に励むことができた。
そして――。
俺は一か月で、あっという間に上級魔法まで習得してしまった。
さすがは天才レイヴンだ。
本来、上級魔法まで習得できるのは、ごく一部の才能ある魔術師だけ。
しかも、それらの魔術師でも十年、二十年と修行しなければ習得できないのが普通らしい。
それを俺は一か月で――。
「いや、100年に一人の天才っていう評判は伊達じゃないな……」
天才に生まれてよかった。
しみじみと実感する。
ちなみに上級の上には最上級魔法があるんだけど、これは特別な儀式がないと習得できないらしい。
こればっかりは俺の才能だけでどうにかなる問題じゃない。
ともあれ――俺はもともと使えたファイアとサンダーのそれぞれを上級魔法まで使えるようになった。
これでゲーム内のレイヴンに比べて攻撃力は格段に上がったはず。
さらに防御魔法であるシールドの方も、もちろん上級魔法まで習得済みだ。
だから防御力に関してもけた違いに上がっている。
もちろん、それ以外の魔法も一通り覚えている。
「よし、俺は以前よりはるかに強くなった――」
「すごいです、レイヴン様」
と、キサラが歩いてきた。
「今日のトレーニングは終了ですか?」
「いや、小休止を入れた後、もう少し続けるよ」
「精が出ますね。レイヴン様がこんなに努力家になるなんて……」
キサラはウルウルした目で俺を見つめている。
「キサラ、感激です」
母上といい、キサラといい、みんな俺が努力することを心から喜んでいる感じだ。
『レイヴン様が真面目になった!』
『やっと更生されたのね』
『あの怠け者がよくぞ……』
なんていう使用人たちのヒソヒソ話を、俺は何度か耳にしている。
……俺、たぶん今まではロクでもない人間として認識されていたんだろうな。
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