ep.26 人を増やしたいんですけど

前回のあらすじ


佐竹が裏方業務に取り組み始め、地味な仕事を着実にこなす中、チーム全体の営業成績が向上した。Aの指導により、最初はミスの多かった佐竹も成長し、自信を持つようになる。彼は自分の役割を見出し、さらに営業補佐にも挑戦したいと申し出た。Aは彼の成長を喜び、サポートを続ける。一方でギャル営業マンの新崎も、佐竹の活躍に驚きつつも、自身の重圧を軽減できることに気づく。こうしてチーム全体が新しいステージに向かうが、ブラック企業としての採用問題に直面し、慎重に考え始める。

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「人を増やしたいんですけど」とAが高山に相談すると、意外にもすんなりOKが出た。しかし、次の言葉が問題だった。




「採用費は0円な。金はかけられないからな」と、高山は軽く言った。




Aは驚いた。通常、企業が採用を行うなら、タウンワークやバイトルといった求人サイトに広告を出すのが普通だ。ところが、高山はそれを全否定した。




「ここでタウンワークやバイトルに金かけたって、うちみたいな会社に来るやつなんていないよ。人が来ないんだ」と言い切る。




Aは深いため息をついた。確かに、彼の言うことにも一理あった。この会社の状況では、求人広告にお金をかけても、その見返りは期待できない。かと言って、採用費をゼロでどうやって人を集めればいいのか、途方に暮れてしまった。




次に思い浮かんだのは、ハローワークだった。条件が良ければ、そこで人が見つかるかもしれない。だが、条件が問題だった。




「最初は無給、研修途中でわかる個人事業主としての業務委託……こんな条件で人が来るだろうか?」




Aは頭を抱えた。この会社の採用条件はめちゃくちゃだ。もはや詐欺的なのだ。




普通の会社ならば給料や福利厚生を売りにして人を集めるが、この会社ではそれが期待できない。Aスクールでの採用業務では、BとCも人伝いでの紹介で採用されたため、A自身も採用に関してはあまり知識がなかった。




Aは昼休みに抜け出し、何か手がかりを得ようと博田駅の8階にある書店へ向かった。図書館は遠すぎるし、ネットで情報を探すには時間が足りない。そこで、採用関係の本を立ち読みすることにした。苦肉の策ではあったが、何もしないよりはマシだ。




数冊の本を手に取り、ページをめくりながらAは新しい手法について知ることができた。




「求人特化型検索エンジンか……」と、Aは呟いた。




今や、Indeedや求人ボックスといった求人特化型検索エンジンの活用が主流になってきているという。これらのサイトを使えば、無料で求人を広く掲載でき、より多くの求職者にアプローチできるのだ。さらに、ターゲット層に合わせた検索が可能で、企業が無料で張り紙を出す感覚でウェブ上に求人を掲載できるという。




「これなら、うちのような会社でも試してみる価値があるかもしれない」とAは思った。




さらに、もう一つの手段として、企業の採用ホームページの作成が紹介されていた。自社の魅力を自由に発信でき、応募者とのコミュニケーションを円滑に進められるのが大きなメリットだ。また、長期的な採用活動にもつながる可能性がある。だが、デメリットとしては、ホームページの作成や運営に手間がかかることや、集客のための工夫が必要なことが挙げられていた。




「手間はかかるけど、自分たちで情報をコントロールできるのは魅力的だな」とAは考えた。




このアイデアを佐竹に相談すると、彼は少し考えてから答えた。「簡単なところなら……自分にもできると思いますよ」と。




佐竹は裏方業務で少しずつ自信をつけてきており、新しい挑戦にも前向きだった。ホームページ作成はそれほど難しくないと判断し、彼に任せることにした。




「でも、写真とかどうしますか?」と佐竹が尋ねた。




Aは考え込んだ。ホームページに載せる写真が必要だが、プロのカメラマンを雇う余裕はない。そこで、思いついたのが新崎だった。彼女は営業の第一線で活躍しているギャルで、いつも明るく活発なキャラクターだ。写真のモデルにはうってつけだろう。




「新崎に頼んでみよう」と、Aは決めた。




その後、新崎に声をかけてみると、意外にも彼女はノリノリで協力してくれた。彼女は普段からチームのムードメーカー的存在で、周囲を明るくする力があった。写真撮影の際も、彼女は笑顔でポーズを取り、チームの雰囲気を引き立ててくれた。ちなみに掲載したのはPCに向かってキーボードを叩いている地味な写真だったのは秘密だ。




こうして、佐竹が作成した採用ホームページに、新崎が写った明るい写真が掲載され、求人情報が完成した。Indeedや求人ボックスにも同じ内容を投稿し、Aは一息ついた。




「これで少しは反応があるといいんだけどな……」と、Aはつぶやいた。




採用の現実は厳しい。しかし、Aは諦めなかった。今できることを一つひとつ積み重ね、少しでも前進するしかないのだ。高山のように悲観的にならず、Aは新たな一歩を踏み出していた。




これからどんな結果が待っているかはわからない。しかし、A、佐竹、新崎、それぞれが協力しながら、この難しい状況に立ち向かおうとしている。小さな努力が実を結ぶ日を信じて、Aたちは次の挑戦に向けて動き出したのだった。

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