あなたの部屋を片付けたい

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:23

身長:172


神川かみがわ水樹みずき

性別:女

年齢:24

身長:161


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:24

身長:156




〈1〉


山西やまにし太希たいきには1年ほど前から週に1回の大きなイベントがある。


それは・・・


「太希君いらっしゃい。」


そう言いながら神川かみがわ水樹みずきは家の扉を開ける。


「今日もよろしくね。」


そう続けて言うと水樹は太希を家に上げる。


太希の眼前には汚部屋おべやした世界が広がる。


「オレ…本当に1週間前に片付けに来たよな?」


そう太希は信じられないと言った様子で水樹に問う。


「うん。来てくれたよ。5時間ぐらいかけて、ピカピカにしてくれた。」


そう水樹は満面の笑みを作って答える。


その笑顔を見ながら太希は大きく息を吐く。


「なら、なぜこんなに汚くなる。

たった1週間だぞ!!こうも簡単にリバウンドするか?!普通!!」


そう太希は大きく吠える。


「それ毎回言ってるよ。」


「だったら、毎回言われないようにしろ!!お前、どんな1週間過ごしてんの?!マジで。」


そう太希は水樹に顔を近づけて問う。


「一般人と変わらないよ。」


そう水樹は真顔で答える。


「一般人は1週間でこんなに家を汚くしねぇんだよ!!お前はアブノーマルなの!!分かる?理解してくれ!!」


そう太希は水樹の体を揺らしながら訴える。


「OK。OK。バリOK。」


そう水樹は揺られながら適当な返事を返す。


ひと通り想いを叫ぶと太希は心を落ち着かせる。


「・・・叫んでも部屋は綺麗にならんな。無駄な事はやめよう。

早速始めようか。週1回の大きなイベント。水樹の家を綺麗にするぞ大作戦、第何回かはもう忘れた。開始だ~ぁ。」


そう太希が右手を挙げるとそれに合わせて水樹も右手を挙げる。


🧹


そして時は流れ約4時間後。


「大体は片付いた~ぁ。」


そう言いながら綺麗になった床に太希は倒れ込む。


「お疲れ様~。」


そう言いながら水樹は1杯のお茶を太希に差し出す。


それを受け取りながら太希は体を起こす。


「っで。毎回思うんだけどさぁ。

何でほとんどオレが片付けてるの?

普通家主であるお前がメインで片付けない?」


そう太希はお茶を飲みながら文句を言う。


「分かってないなぁ。太希君は。」


「え?」


「私が自分で片付けられるなら、汚部屋にはなってないでしょ?」


そう微笑みを見せながら言われて太希は返す言葉がない。


何とか出した言葉は「さいで」だった。


🧹


それからさらに約1時間ほどで部屋は完全に綺麗になる。


「終わった。終わったぞ~。」


そう太希は自分を誉めるように叫ぶ。


「本当にお疲れ様。夕飯食べていくでしょ?」


そう水樹がキッチンから太希に声をかける。


「当たり前だ。ここまで頑張ってタダ働きなんかしてられるかぁ!!」


そう太希は叫ぶ。


「じゃぁ待っててね。

太希君が大好きな水樹スペシャルハンバーグを作るから。」


そうキッチンから顔だけ出して水樹は微笑む。


「・・・何がスペシャルハンバーグだ。

ただのハンバーグだろうが。

・・・確かに味は旨いけど。」


そう太希は1人呟く。


🧹


『ごちそうさまでした。』


そう太希と水樹は声を合わせて手を合わせる。


「じゃぁ、太希君。洗い物よろしくね。」


そう微笑みなが水樹は自分の皿を太希に渡す。


その皿を太希は不機嫌そうに睨む。


「なぜ毎回、客であるはずのオレが洗い物をせねばならんのだ?」


そう太希は文句をこぼす。


「別にしなくてもいいわよ。

結局は1週間後のあなたがするんだから。」


そう水樹が純粋な瞳を太希に向けて言葉を返す。


そんな水樹に太希は大きく息を吐き出す。


「わ~ぁた。わ~ぁた。

やりますよ~。」


そう太希は諦めて水樹から皿を受け取ると自分の皿も持ってキッチンに向かう。


そんな太希の後ろ姿を水樹は嬉しそうに眺める。


🧹


「っんじゃぁ、また来週の日曜日な。

可能な限り綺麗にたもてよ。」


そう太希は玄関で水樹に言う。


「OK。可能な限り頑張る。」


その軽い声に太希はこれは無理だと悟る。


家を出ようとする太希の背中に水樹は声をかける。


「太希君。」


その声に太希は振り返る。


「本当にいつもありがとね。」


そう水樹は優しく微笑む。


この微笑みだ。この微笑みのせいで太希は水樹を見捨てる事ができない。

毎週、嫌になると分かりながらも片付けに来てしまうのだ。


最後のこの優しい微笑みを見るために。


〈2〉


太希たいきが帰った後に水樹みずきは親友の四条しじょう七海ななみと電話をしていた。


「は~ぁ?!また山西やまにし君に部屋の掃除させたの?!あんた。」


そう七海は大きな声で驚く。


その七海の言葉に水樹は悪気のない声で「うん」と返した。


「うんってあんたねぇ。

もしかして山西君のこと家政婦か何かと間違えてない?」


そう七海は呆れた声で問う。


「間違えてないわよ。ちゃんと理解してるわ。太希君は高校の時から私の世話をしてくれる世界で1番な人だってことは。」


そう水樹は言い切る。


「・・・分かんないわ。」


「なにが?」


「あんたら絶対両想いなのに何で付き合ってないの?」


そう七海が理解できないと言った声で尋ねると水樹は顔を赤くする。


「そ、そんなのか、関係ないよ。」


そう少し裏返った声で水樹は言葉を返す。


「ふ~ん。本当、不思議ね。

付き合いとは思わないの?」


そう七海は続けて尋ねる。


その問いに水樹は少し間を作る。


「・・・付き合うとさぁ…良くも悪くも今の関係は終わっちゃうでしょ?」


「まぁそうね。」


「今の関係がいいんだ。この距離感が今は幸せなんだ。太希君もきっと…そう思ってるから告白してこないんだと思う。」


そう水樹が自分の想いを話すと七海は少し考える素振りを見せる。


「やっぱ、変わってるね、あんたら。

でも、2人共それで幸せならウチはなんにも言わんよ。これからもお幸せに。」


そう言い残すと七海は電話をきる。


静かになったスマホを水樹は少し寂しそうに見つめる。


🧹


そして、次の日曜日。


「今日もよろしくね。」


そう笑顔で水樹は太希を家に上げる。


先週と同じように汚部屋おべやした世界に太希は大きなため息が出る。


「一応聞こう。」


「どうぞ。」


「これが可能な限り頑張った結果か?」


そう太希は呆れた視線を水樹に向けながら問う。


「そうだよ。ほら見て。」


そう言われて太希は水樹が指差す方向へ目線を向ける。


そこはベッドの上だった。


「前回まではベッド上にも物があったでしょ?でも、今回はない。これは大きな成長だよ。」


そう言って水樹は小さな胸を張る。


そんな水樹に太希は大きな息を吐くと

「さいでっか」と言葉を返す。


「・・・時間がもったいない。

始めるか。週1回の大きなイベント。

水樹の家を綺麗にするぞ大作戦、第何回かはもう忘れた。開始だ~ぁ。 」


そう気合いを入れると太希は片付けを始める。


🧹


1人テキパキ片付ける太希に水樹は声をかける。


「ねぇ、太希君。」


「あん?」


「太希君って…どんな女性がタイプ?」


そう聞かれて太希は動きを止めると水樹の方へ目線を向ける。


太希の目に映る水樹の顔は真剣なものだった。


「何でそんなこと聞くんだよ。」


「いいでしょ?答えてよ。」


そう太希から目線をらして水樹は言う。


太希は水樹の質問に答えるために真剣に考える。そんな太希の頭に浮かんだのは水樹のあの優しい微笑みだった。


「・・・微笑みが…素敵な人…かな。」


そう太希が答えると水樹は目線を太希に戻す。


「・・・もっと具体的に言ってよ。」


そう返されて太希は困る。


少し考えたのちに太希が出した答えは。


「・・・水樹みたいに素敵に微笑む人。」


その太希の言葉が2人の時間を止める。


〈3〉


{・・・水樹みずきみたいに素敵に微笑む人。}


止まった時間を動かすように太希たいきは大きく手を叩く。


その音で水樹は意識を現実に戻す。


「片付け続けようぜ。お前は洗濯物しろよ。どうせまってんだろ?

さすがに女の洗濯までは男のオレじゃできんからな。」


そう太希に言われて水樹は返事を返さずに風呂場へ向かう。


そんな水樹の頭の中には先ほどの太希の言葉が洗濯機の様にぐるぐると回っていた。


🧹


それから数時間後。

部屋は完全に綺麗になった。


片付けを終え、いつものように自分が作ったハンバーグを食べながら水樹は太希に話しかける。


「・・・ねぇ。」


「ん?」


「私達のこの関係てさぁ、いつまでも続くかな?」


そう聞かれて太希は考える。


「・・・いつまでもは…続かないんじゃないか?」


その意外な太希の返事に水樹は驚く。


「どうして…そう思うの?」


そう水樹が少し緊張した声で尋ねる。


「お前が言ういつまでもの期間が分からんから上手くは言えんが、結局この世にはさぁ永遠はないんだよ。」


「え?」


そう太希の言葉の意味が分からず水樹は聞き返す。


「人生にだって終わりがあるように全てのものには終わりがあるんだよ。

それはきっと目に見えるものだけじゃなく、目に見えないものだってそうさ。

例えば、死んでった人の想いを生きてる人が受け継いだとしても、それはもう別の想いだよ。誰か違う人にわたった時点で似た別ものに変わるんだ。」


そう想像よりも壮大そうだいになっていく話に水樹はついていけない。


「私はそんな大きな話はしてないんだけど。」


そう少し困惑した様子で水樹が言う。


「一緒だよ。」


「え?」


「オレ達の関係も。

だってオレ達の人生が一生同じなわけないだろ?変わるんだよ。分かりやすいので言うと恋愛とかかな。」


「恋愛?」


「オレかお前に恋人ができたら、この関係は絶対終わる。少なくとも、2人きりではなくなるな。」


そう太希が言い切る。


「だから、いつまでもは続かない。」


そう太希は小さく呟いて話をめる。


「・・・太希君は寂しくないの?」


「え?」


「そんな未来。」


そう水樹が寂しそうな瞳を太希に向けて尋ねる。


「・・・さぁ。さすがにその時になってみないと分からねぇな。」


そう太希は水樹から視線をらして答える。


🧹


ハンバーグを食べ終えて洗い物を終えると太希は玄関でくつをく。


「それじゃぁ。今日もありがとね。」


そう水樹はいつもの優しい微笑みを見せてお礼を言う。


「あぁ。また来週の日曜日に。」


そう太希は言って水樹の家を出る。


1人残った水樹は考える。

先ほどの太希との会話を思い出しながら。


{いつまでもは続かない。}


太希のこの言葉が水樹の心に重くのしかかる。


🧹


次の日曜日。


「太希君。今日もよろしくね。」


そう言って水樹は家の扉を開ける。


家に上がった太希の眼前にはいつもと変わらない汚部屋おべやが広がっている。


「この部屋に来るたびにオレはループしてるじゃないかと錯覚するよ。」


そう太希は呆れたため息をこぼす。


「おぉ。いいね。ラノベの主人公みたいで。」


そう水樹が明るい声で言葉を返す。


そんな水樹に太希は呆れた視線を向けるが水樹は全然気にしない。


そんな水樹の様子に太希はもう1度ため息をこぼすと気合いを入れる。


「週1回の大きなイベント。水樹の家を綺麗にするぞ大作戦、第何回かはもう忘れた。開始だ~ぁ。」


🧹


「ねぇ、太希君って何色が好き?」


そう唐突とうとつに水樹が質問する。


「あん?また唐突だなぁ。」


「いいから、答えてよ。」


そう水樹に催促さいそくされて太希は考える。


「薄い青色かな。」


「どうして?」


「何となく、青空に似てるから。」


「へぇ。なんか可愛いね。理由。」


そう水樹に言われて太希は恥ずかしそうに少し顔を赤くする。


「じゃぁお前は何色が好きなんだよ。」


そう太希は聞き返す。


「そうだなぁ。赤色かな。」


「なんで?」


「運命の色だから。」


そう水樹は微笑んで答える。


「なんとも…女子らしい理由だ。」


そう太希は言葉を返す。


それからいつもの様に片付けを終えると水樹が作ったハンバーグを2人で食べて太希は帰っていく。


もちろん。そんな太希を見送る水樹は優しい微笑みを見せていた。


〈4〉


次の日曜日。

いつもの様に汚部屋おべやに文句を言った後に

太希たいきは片付けを始める。


そんな太希の目に机の上に置かれた小さな箱がまる。


「なんだ?この箱。先週はなかったよな?」


そう太希が箱を手に持って水樹みずきに尋ねる。


すると水樹は慌てた様子でその箱を奪い取る。


「こ、これは自分で片付ける。」


そう言うと水樹は台代わりに椅子を持ってきてその椅子の上に立つ。


その瞬間。椅子がくるりと回って水樹は落ちかける。


そんな水樹の体を太希が受け止める。


「危ないなぁ。もっとまともな台はないのか?」


そう太希が尋ねる。


「残念ながらありません。」


そう答えると太希に体を支えてもらいながら水樹は小さな箱をタンスの上に置く。


「支えてくれてありがとう。」


そうお礼を言いながら水樹は椅子から下りる。


「いえいえ。」


そう答えた後に太希はタンスの上にある先ほどの小さな箱に目線を向ける。


「勝手に取ったら怒るからね。」


そう水樹は警告する。


「取らねぇよ。」


そう答えると太希は片付けを再開させる。


その後の流れはいつもと同じだ。

片付けを終えたらハンバーグを食べ、太希がその洗い物をする。


洗い物を終えて太希が帰ろうと玄関に向かうと水樹が声をかける。


「ねぇ太希君。」


「ん?」


「来週の日曜日。太希君の誕生日だよね?」


そう聞かれて太希は自分の誕生日を思い出す。


「そういえば、そうだな。」


「パーティーしようよ。2人だけで。

ケーキは私が買っておくからさ。」


そう提案する水樹の表情はとても明るいものだった。


そんな表情を見たら断ることはできない。


「チョコケーキでお願いします。」


そう太希は注文する。


🧹


そして…次の日曜日…。


太希はいつもの様に家のチャイムを鳴らすが返事はない。


「あれ?居ないのか?

仕様しょうがない。使いますか奥の手。」


そう言って太希がリュックから取り出しのは合いかぎだった。


ちなみにこの合い鍵を使うのは初めてである。


そんな合い鍵を使って家の中に入った太希は部屋に電気がついている事に気がつく。


「なんだ。居んのかよ。

お~い。水樹~。」


そう声をかけながら太希は家に上がる。


次の瞬間、太希の目に映るのは頭から血を流して倒れている水樹の姿だった。


「水樹?!」


そう叫びながら太希は水樹に駆け寄る。


水樹の体を抱き抱えながら太希は何度も水樹の名前を呼ぶ。


「…た…太希…君?」


そう水樹が細い声で太希の名を呼び返す。


「良かった。生きてるな。

今、救急車呼ぶからまってろ。」


そう言うと太希はズボンのポケットからスマホを取り出す。


「…やっぱ…ちゃんとした台…買うんだったな…。回る椅子…危ないね…。」


その水樹の言葉を聞いて太希は倒れている椅子を見つめる。


「反省は後にしろ。」


そう言って病院に電話をかけようとする太希を水樹が手で止める。


「…意識…飛びそうだから…聞いて…。」


「なにを?」


「その辺に小さな箱…落ちてない?」


そう水樹に聞かれて太希は周りを見渡すと床に落ちた小さな箱を見つける。


その箱は先週、水樹がタンスの上に置いた箱だった。この箱を取ろうとして水樹は椅子から落ちたのだと太希は理解する。


「…その箱…太希君への誕生日…プレゼント…なんだ。」


「はぁ?!誕生日プレゼント?!

そんなの後でいいだろ?!」


「…絶対…受け取ってよ…。

私の……なんだから。」


そう言い残すと水樹は目を閉じる。


「水樹…?水樹…?!水樹ーぃぃ!!」


そう太希は叫んだ後に急いで病院に電話をかける。


だが・・・水樹が助かることは…なかった。


〈5〉


夜の病院はとても静かで誰も居ない。

そんな病院の椅子で太希たいき七海ななみは並んで座っていた。


「・・・前に水樹みずきに聞かれたことがあったんだ。」


「なにを?」


そう七海は優しい声で聞き返す。


「オレ達の関係はいつまでも続くと思うかって。」


「なんて答えたの?」


「・・・続かないと思う…って。」


「そう。」


「そしたらあいつ…そんな未来、寂しくないのかって聞いてきたんだ。」


「今度はなんて答えたの?」


「・・・その時になってみないと分からない…って」


「・・・寂しい?」


そう七海が聞くと太希はポロポロと涙を流す。


「・・・寂しいなんてもんじゃ…ないな。もう…自分の感情が分かんねぇよ。

こんな未来…予想してなかったんだ。

もっと…幸せに終わると思ってた。

どっちかに恋人ができて…それを祝って…終わるって…そんな未来を…オレは…想像してたんだよ。違う…違う…よ。こんな…未来…違う…よ。」


そう太希の止まらない哀しみは次第に太希の心を黒く締めつけて吐きへと変える。


その吐き気にえられなくなった太希は急いでトイレに駆け込む。


太希は便器に自分の心を黒く締めつけるものを吐き出す。


「おぇ。おぇ。おぇぇぇぇ。」


黒いものを吐き出すたびに太希の頭と感情は白く染められていく。


🧹


太希がトイレから出てくるのを七海は待っていた。


「待ってたのか。」


そう太希が七海に話しかける。


「今のあんたを1人にすると水樹の後を追ってきそうだったから。」


そう七海が答える。


「・・・なるほど。その考えはなかったな。」


そう太希は崩れた微笑みを見せる。


「そんな事したら、天国あっちで水樹にどやされるわよ。」


「はは。もう1度会えるなら殴られるのも悪くないなぁ。」


そう太希が言葉を返すと七海は鋭い目を太希に向ける。


「それ、本気で言ってる?」


そう冷たい口調で聞かれると太希は歩き出す。


「冗談に決まってんだろ。」


そう太希は七海の方を振り返らずに答える。


「ねぇ。山西やまにし君。」


そう名前を呼ばれて太希は足を止めると振り返る。


「山西君は水樹の事、好きだったの?」


そう質問する七海の目は真剣なものだった。


その問いに太希は正直に答える。


「好きだったよ。」


🧹


自分の家に帰った太希はベッドに倒れ込む。そんな太希はズボンのポケットに違和感を感じる。


その違和感の正体をポケットから取り出す。


太希の手には水樹の家の合いかぎが握られていた。


「・・・あぁ。水樹の親父さんに返すの忘れてたな。」


そう太希は合い鍵を見つめながら呟く。


そんな太希の頭には病院での親父さんとの会話がよみがえる。


🧹


「水樹から聞いてたよ。1年ほど前から部屋の片付けに来てくれてたんだって?」


そう親父さんが太希に話しかける。


「えぇ。」


そう太希は静かな声で返事をする。


「あいつが実家うちに住んでる時は私があいつの部屋をよく片付けたものだ。」


「…それは大変でしたね。」


「でも、それが嬉しかったんだ。

女の子は父親に部屋に入られるのを嫌がるものだと思ってから。

でもあいつは違った。毎回、私が部屋を片付けた後に嬉しそうに微笑んで“ありがとう。お父さん”って言ってくれるんだ。

それが嬉しくてねぇ。」


その親父さんの話を聞いて太希はいつものあの優しい微笑みを思い出す。


「・・・オレも同じです。

最後、見送る時のあの微笑みを見るために毎週、片付けに行ってたんです。

どんなに片付けが大変で嫌になっても、あいつの最後のあの微笑みを見たら全部忘れるんです。そして…来週も来ようって思うんです。・・・そうか…1年以上もそんな日々…続けてたんだな…オレ。」


そう太希は声をふるわせる。


🧹


合い鍵を強く握ると太希は自分の家を出る。


太希が向かったのは水樹の家だった。


〈6〉


太希たいきは合いかぎを使って水樹みずきの家に入ると電気をつける。


部屋は今朝来た時と変わらず汚いままだ。


太希はそんな部屋を軽く見渡した後に

「週1回の大きなイベント。水樹の家を綺麗にするぞ大作戦、第何回かはもう忘れた。開始だ。」と小さく呟いて片付けを始める。


🧹


数時間かけて部屋を綺麗にした太希は飲み物を飲もうと冷蔵庫を開ける。


そんな太希の目にケーキの箱がまる。


{パーティーしようよ。2人だけで。

ケーキは私が買っておくからさ。}


太希はそのケーキを取り出すと皿を2出してケーキを分ける。


ケーキは太希の要望通りチョコレートケーキだった。


2つのケーキを机の上に置くと太希は「いただきます。」と言ってケーキを1口食べる。


「・・・うん。旨い。旨いよ…水樹…。」


そう言いながら太希は涙を流す。


そんな太希の目に机の上に置かれた小さな箱が映る。


{…その箱…太希君への誕生日…プレゼント…なんだ。…絶対…受け取ってよ…。

私の…想い…なんだから。}


太希の手は小さな箱に伸びる。


箱の中には1枚の手紙が入っていた。

太希はその手紙を読む。


太希君へ。

いつも私の部屋を片付けに来てくれてありがとう。本当にいつも感謝してます。

私にとってあの時間は宝物のようなものです。太希に呆れられながら文句を言われ、私がそれを軽く返す。そんなどうってことない時間が幸せでたまりません。

前に太希君にした質問を覚えてる?

私達のこの関係はいつまでも続くのかって質問。私のこの質問に太希君は続かないと答えましたね。それは多分、正しいことなんだと思います。でも…やっぱり私はとても寂しいです。なので永遠には無理でも、一生にはできる方法を考えました。少し関係は変わるけど、それでも私の宝物のような幸せな時間を一生にするための方法を。太希君…私、太希君のことが好きです。私の恋人になってくれませんか?そして、一生私の部屋を片付けてくれませんか?答えがイエスならどうか、この手紙と一緒に入っている私の想いがこもったミサンガが手につけてください。どんな結果になっても私はずっとあなたのことを愛しています。

神川かみがわ水樹より。


涙が止まらなかった。

1つ1つ1文字1文字の水樹の想いが太希の心を温かく包む。


太希は小さな箱に入ったミサンガを取り出す。


そのミサンガはの2色の色で作られていた。


その2つの色を見て太希の涙は余計に止まらなくなる。


太希は何時間も泣いた。

手紙とミサンガを握りしめて。


🧹


太希が水樹の家を出ると朝日が出迎えてくれた。綺麗に輝く朝日を1度見上げた後に太希は歩き出す。


その太希の右手には水樹の想いが籠められたミサンガがつけらていた。


そのミサンガを朝日が綺麗にらす。

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