今のこの『好き』を僕たちは何と呼ぶのか
柊なのは
第1話 恋か憧れか
中学1年の夏の暑い日。偶然、体育館を通りかかりバスケでシュートを決めている彼女の姿を見かけた。その時、俺、
カッコいいだけじゃない一言じゃ言い表せないほど彼女の姿は輝いていた。
同じバスケ部に所属する彼女の名前は、
スラリとしたスタイルに天使のような明るい笑顔の彼女は、学校では男女共に人気者で、告白された回数は数えきれないほどらしい。
彼女はバスケが好きでよく朝練をしていたので、朝早くに登校した時は彼女のバスケを見に行っていた。
体育館を覗くと園川さんはシュート練をしていた。邪魔しないよう静かにここまで来たが、彼女はボールを持ってこちらへ駆け寄ってきた。
「あっ、東條くん!」
太陽みたいに明るい笑顔で手を振る園川さんは今日も可愛い。いや、超をつけた方がいいほど可愛い。
いつもは髪を下ろしているが、部活をしている時だけポニテだ。
「今日も朝練偉いね。チョコレートいる?」
「わっ、いるいる! 今日も差し入れありがとう!」
チョコレートを持っていない方の手を彼女にぎゅっと握られ、俺は心臓が止まりそうになる。
(そ、園川さんにてっ、手を!)
俺にとって園川さんは、憧れだ。例えると園川さんがアイドルで俺はファン。話すだけでもドキドキする。
この例えを友人に話すと意味がわからないと言われ、恋愛として園川さんのことを好きなんじゃないかと聞かれたが、俺の彼女のへの好きは恋愛ではないと思う。
「ん~美味しい。たくさん運動した後の甘いものはいいね」
チョコレートを受け取って食べた園川さんは、頬に手をやり、幸せそうな表情をする。
朝で眠たかったが、太陽なキラキラした笑顔で目がパッチリと覚めた。
バスケが好き同士、園川さんとはこうしてよく朝に話していたが、高校に入ってからはお互いバスケ部に入らず接点はなくなった。けれど、彼女に憧れていることは変わらない。
バスケをやめた園川さんも俺にとってはキラキラして輝いていることに変わりなかったから。
「同じクラスであるだけで幸せ」
偶然、彼女と同じ高校に進学し、そして同じクラスになれた。けれど、入学してからはまだ一度も話せていない。
話しかけたいが、彼女の近くにはいつも人がいて近づけない。けど、いいんだ。遠くから見ているだけで十分。
「今日も幸せそうだな。俺にも少し分けてくれ」
園川さんのことを遠くから見ていると目の前に座っていた
柊とは中学からの仲で、同じバスケ部だった。今は俺と一緒で部活には所属していない。勉強とバイトをやりながらは難しいからだそうだ。
「なら柊も園川さんを見たらいい。あの太陽みたいな笑顔を見れば」
「ほんと朔は、園川さんのこと好きだよな。告白しないのか?」
「前から言ってるけど、俺にとって園川さんは憧れなんだ。付き合うとか恐れ多すぎる」
「園川さんは何者なんだよ」
何者……一言で言うなら女神だな。いや、天使なのかもしれない。
じっと見ていてはいつか視線に気付かれそうなので俺は園川さんから目を離し、窓から外を眺めた。
***
放課後。途中まで柊と一緒に帰り、駅からは1人になった。
そのまま家に帰るつもりでいたが、ふと中学の頃に柊と練習していたバスケットコートが今もあるのか気になり、寄ってみることにした。
バスケは趣味としてたまに休日、柊と集まってバスケをするが、中学の時とは場所を変えている。
(懐かしいな。今も……ん?)
変わらず今もバスケットコートがあり、懐かしいと思ってコートの方へ目を向けるとそこには園川さんがいた。
久しぶりにバスケをする彼女の姿に俺は見とれてしまった。やっぱり園川さんのバスケ姿は変わらずカッコいい。
立ち止まって見ていると彼女は俺に見られていることに気付き、大きく手を振り、こちらへボールを持って駆け寄ってきた。
「東條くん! バスケしに来たの?」
「ううん、通りかかっただけ。園川さんもバスケ続けてたんだね」
「続けてるよ、大好きだもん。高校でも本当は続けたかったけど親に勉強に専念しろって言われてね。バスケ好きだからこうしてたまにここに来てやってるの」
彼女がバスケ好きなのは中学の時、練習を見ていて伝わってきていた。誰よりも努力して、誰よりもバスケを好きでいる彼女の姿が俺は好きだ。
「もってことはもしかして東條くんもバスケ続けてるの?」
「うん、たまに柊と」
「柊……あっ、矢野くんね」
園川さんは柊とは話したことがないが中学の時、同じバスケ部だったので覚えていたようだ。
「てか、話す久しぶりだね。また話したいって思ってたから嬉しいな」
両手を合わせて小さく微笑む彼女に俺は心打たれた。やはり近距離でのこのスマイルは破壊力が凄い。
「俺も嬉しい。学校じゃ園川さん、人気者で話しかけたくても話しかけにくかったから」
「……そうなんだ。ならこれからはたまに2人で会って話そうよ。あっ、バスケをするっていうのもありかも」
高校生になって、遠い存在に見えていた。けれど、園川さんは今目の前にいる。
「うん、いいね」
「じゃ、決まりだね。久しぶりに1on1やらない? 1人だとやれること限られててあんまり練習にならなくて。ホイッ、東條くん!」
急にバスケットボールを投げられ、俺は慌ててボールを受けとる。
「学校からそのまま来たみたいだけどこのボール……」
「帰りに寄るって決めてたから学校に持ってきてたんだ。私のマイボール」
中学の時、朝練を見に行くと流れでいつも俺と園川さんは1on1をやろうとなっていた。
持っていたカバンをベンチの上に置くと俺は服の袖をめくってボールを両手で持った。
「やろっか」
「うん! 先にシュートした方が相手に1つお願いできるって言うのはどうかな?」
「いいと思う」
「じゃ、決まり!」
俺から始めていいとのことでゴールへ向かってドリブルする。すると、園川さんが風のように横を通り、ボールを取られ、そして気付けばシュートを決められていた。
後ろを振り向くとそこにはシュートが決まって笑顔でボールを拾う彼女がいた。園川さんは、ボールを持って立ち尽くす俺のところへ歩いてくる。
「私の勝ちだね。さてさて、何をお願いしよっかなぁ~」
「園川さん、ニコニコすぎて怖いんだけど」
「大丈夫だよ。このお願いは嫌なら断ってくれていいから」
目の前に来ると園川さんは、足を止めて、真っ直ぐと俺のことを見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます