第10話

 ──優樹に告白される一週間前のこと。

小鳥遊たかなししずくさん……だよね?」

 背後で唐突に掛けられた声にしずくは思わず、肩を震わせた。

 振り向いた瞬間、視界が捉えた声の主を確認して、全身が強ばる。

 しずくには見覚えのある顔だった。


 国分こくぶ湊翔みなと

 優樹の中学時代のクラスメートであり、優樹のことをいじめていた人物だ。


 しずくが直接話したことがあるのは、一度だけ。

 ──優樹をいじめているのを目撃し、思わず助けに入った日。

 あの時の様子より、更に目つきは鋭くなっており、しずくはえもいわれぬ恐怖心を感じた。



          ◇

  


 ──中学三年の頃、しずくは下校中に隣の中学校の制服を着た優樹のことを、たまに見かけることがあった。

 身長は高く、スラリとした誰もが目を引くスタイル。

 それに反して、背中は曲がり、前髪は目が隠れるほど長い。そのうえ、俯いて歩いている。

 同じ塾の同じ授業を受けているしずくは、彼が塾でも同じ中学の制服を着ている生徒が複数いるにも関わらず、誰とも話す様子がないことが気になっていた。

 

 ──次の塾で会った時、話し掛けてみようか。

 そんなことを考えながら、彼のことを目で追っていると。

 優樹と同じ中学の制服を着ている一人の男子生徒が、優樹のことを掴みかかるようにしてどこかに引きずっていく光景が目に飛び込んできた。

 すぐに、ただ事ではないとしずくは思い、二人のことを追いかけ、助けに入ったのだ。

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