第9話

 ──本格的に夏の暑さが訪れた。

 高校入学後、初めての期末試験も終わり、夏休みを直前に控えた頃。


 優樹はしずくに告白した。

「ごめんなさい。友達としか思えないから、恋人にはなれない……」

 しずくは呟くように、そう応えた。

「……そっか……」

 優樹はかろうじて、そう応えた。

 ──明るく振る舞わなくてはいけない。

 とっさに優樹は形式的に口角を上げてみる。

 自分の顔など見えないが、ひどく歪んでいるであろうことは予想がつく。

 しずくも自分のことを好いてくれている。

 出会ってから今までの関係性から、優樹にはそんな確信めいた自信があった。

 だが、ただの自惚れだったのだ。

 貼り付いた笑顔で別れ、家路につく。



          ◇



「振られたですって!?」

 凜々花りりかは声を張り上げた。

 ──そんなはずはない、と思った。

 入学式の時、しずくが優樹を見つめる表情。それは恋する乙女のものだった。

 

 ──優樹は夕食を済ませると、早々に自室へと戻っていった。


 ──これで良かったじゃない。

 凜々花りりかは心の中で唱える。

 しかし、心の声とは裏腹に、ドスンと重いものが乗ったような、苦しみを覚えた。


 凜々花りりかはスマートフォンを手にし、ある人物へと電話を掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る