第8話

 ──病院につくとすぐに病室に通された。

「優樹! 大丈夫なの!?」

「……大丈夫」

 優樹はベッドに寝かされていたが、意識ははっきりしているようだ。しかし、声はかすれ、動作もおぼつかない。


 川に落ちた直後に、通りかかった人に救助されたとのことだった。救助された直後は意識不明の状態だったが、迅速な対応のおかげですぐに意識を取り戻したらしい。

「心配かけてごめん……」

 優樹は呟くと、目をつむった。



          ◇



 ──目撃者が数名いた為、優樹が誰かに川に突き落とされた、ということはすぐに分かった。

 そして、その相手もすぐに特定された。

 ──名前を聞いて凜々花りりかは驚いた。    

 優樹と小学校から同じの男子生徒、国分こくぶ湊翔みなとだったのだ。


 湊翔みなとと優樹は小学校の頃、よく遊んでいた。

 明るくて時にふざけすぎることもあるが、優しい良い子だった、と凜々花りりかは記憶している。


 ──一晩入院したのち、優樹は退院することができた。

 そして、学校で教員、保護者を交えた話し合いの場がもたれた。

 

 湊翔みなとは優樹に「金持ちで甘やかされてムカつく」という言葉をよく言っていたらしい。

「そんなことで人を川に突き落としたの!? 一歩間違えば死んでいたのよ!?」

 凜々花りりかは声を荒らげたが、湊翔みなとは表情一つ動かさず、まともに声を発することもなかった。


 ──ほどなくして、湊翔みなとの両親は離婚し、彼は母親の地元に引っ越すことになり、音信不通となった。

 


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