第5話

「前に、母さんの名前で検索したことあってさ。サトルさんが小鳥遊たかなしさんの父親だっていうのも、小鳥遊たかなしさん自身から、前に聞いたことがあって」


 優樹は眉をしかめたままの凜々花りりかに、気遣うように優しく微笑み、言葉を続ける。

「元々、小鳥遊たかなしさんとは隣の中学で、駅ですれ違ったりしてたんだ。ウチの中学でも、有名だったんだよ。あまりに美少女だから」

「……ふーん?」

「それである時、いじめられているところをたまたま見られたんだ。その時、小鳥遊たかなしさんは迷わず、僕のことを助けてくれた」

「……」

「──人目のつかない路地で殴られた。小鳥遊さんはその少し前から、僕達の様子を見て、友達関係ではないと思ってこっそりついてきていたんだって」

 優樹はその時のことを回想し、可笑しそうに笑った。

 

 ──中学三年の秋、下校中に優樹はクラスメートである山本湊翔みなとに出くわした。

 優樹はその頃、湊翔みなとにいじめられていた。

 あからさまに無視されたり、聞こえるように悪口を言われたり。

 原因をいくら探してみても、優樹には見つけることが出来ずにいた。


 目が合った湊翔みなとは、いつもに増して機嫌が悪いことが、眉間に深く刻まれたしわから察することができる。


 湊翔みなとは優樹を見つけると同時に、雄叫びのような声を発し、突進してきた。

 街中であることを気にも留めず、「ちょっと来い」と荒々しい口調と仕草で優樹を人目につかない路地裏へと連れていかれた。

 なんとか抵抗しようとするものの、体格差が大きく、それもかなわない。

 不意に腕の力を緩めたと思った次の瞬間。

 優樹は身体全体に強い衝撃を覚える。

 思いきり、突き飛ばされ、壁に背中を打ち付けたのだ。

 そして思いきり、顔を一発殴られた。

「ヴッ」

 鈍い声が出る。地面にうずくまり、すぐには動くことができなかった。


 今まで、湊翔みなとに小突かれたり、暴言を浴びせられたりしてきた。だが、ここまで激しく暴力を振るわれたのは、初めてのことだった。

 

 今まで、気にしないようにと思ってきた優樹だが、今回ばかりは大きなショックを覚えた。

 

 湊翔みなとはそれで収まる様子はなく、次は右足を後ろへと振り上げた。

 

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